選択的夫婦別姓を望んできた女性にとっては、その多くはただ自分の姓を変えたくないというシンプルな理由から制度化を希望してきたはずだ。だが、安倍首相はそうした国民の声を「家族の解体が最終目標」と罵り、お決まりの「左翼」「共産主義」「日教組」と自身がつくりあげた仮想敵の名を挙げて「ドグマ」だと言い切るのだ。
むしろ、夫婦別姓を徹底して敵視し、国会におけるヤジが象徴的なようにあらゆる不都合を「日教組」のせいに仕立て上げる安倍首相こそ「ドグマ」に支配されているように思えるが、この歪んだ思想を安倍首相は“踏み絵”にしてきた。
じつは、この「夫婦別姓は共産主義のドグマ」が飛び出した翌月、つづいて「WiLL」に掲載された安倍氏と櫻井よしこ氏、10月に次世代の党から古巣の自民党に復党した平沼赳夫氏らとの鼎談でも、「亡国的な左翼政策」(平沼氏)として選択的夫婦別姓制度を問題視。安倍首相はこう語っている。
「自民党の中でも健全な保守的な考えを持つ議員がヘゲモニー(覇権)を握り、主流派になっていくことが求められています。その際は外国人参政権、夫婦別姓、人権擁護法案などの問題に対して、明確な態度を示しているかどうかが一つの基準になります」(「WiLL」10年8月号)
つまり、夫婦別姓に反対する“健全な保守議員”が主導権を握らなければいけないと言っているわけだが、この宣言通り、安倍氏は首相に返り咲くと身のまわりを保守というより極右思想のシンパや安倍チルドレンで固めた。事実、現在の安倍内閣のそのほとんどが夫婦別姓反対の立場で、なかでも高市早苗総務相や丸川珠代環境相、島尻安伊子沖縄北方担当相という女性議員は全員が別姓に反対。また、“ポスト安倍”とも言われる安倍首相の秘蔵っ子・稲田朋美自民党政調会長は「別姓推進派の真の目的は「家族解体」にあります」(ワック『渡部昇一、「女子会」に挑む!』/11年)と、安倍首相とまったく同じ発言を行っている。
本サイトでは繰り返し指摘してきたが、1996年に法制審議会が導入について答弁して以来、選択的夫婦別姓は98年、2002年、2010年と何度も国会で導入が検討され、そのたびに自民党が強い反対を行い、結局、実現にいたらず今日まできた。その中心にいたのが安倍晋三その人だ。安倍首相は党内議論の初期から、「わが国がやるべきことは別姓導入でなく家族制度の立て直しだ」と語っていたと言われるが(朝日新聞出版「AERA」06年11月13日号)、では、その「家族制度の立て直し」とは何なのか。それは自民党の憲法改正草案を見ればよくわかる。自民党改憲草案の第24条は、現行憲法の「個人の尊厳と両性の本質的平等」の前にこんな文言が追加されている。
《家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。》