本サイトでは既報の通り、高須氏は〈戦闘でアメリカには完膚なきほど叩きのめされたが「列強の東亜侵略百年の野望を覆す」目的は達成できた。韓国や中国に戦争で負けたわけではないのに彼らは戦勝国?彼らに対して「終戦」が相応しいと思います〉などと侵略を正当化し、韓国と中国への戦争責任を否定するばかりか、敵意を剥き出しにしている。さらに、〈ヒトラーは無私の人。ドイツ国民が選んで指示してた。ドイツそのもの。都合の悪いことは全部ヒトラーとナチスのせいにして逃げたドイツ国民はズルい!〉などとナチスを肯定し、挙げ句〈南京もアウシュビッツも捏造だと思う〉と主張している。
普通に考えたら、こんなトンデモないことを公言してしまう相手とまともに付き合う神経をよくもち合わせられるものだと驚くが、実際、こちらも既報の通り、高須氏の長男である力弥氏は〈高須クリニックのために院長が率先してマイノリティ差別をやめてください〉〈父は相手を挑発する目的で軽々しく差別語を発言する性格で、その点をなんとか改めてもらいたいと思っております〉とTwitter上で父を真正面から諫めている。だが、西原氏はそうではなく「そんなに旗色をはっきりされると困るんだけど」「私はどっちからも漫画を買ってほしい」と、自身の商売のことしか考えていないらしい。
西原氏といえば、数多くの作品を通し、さまざまな事象を露悪的な表現でもって相対化してきた。そして、自身の経験を漫画にも反映させ、貧乏だった生い立ちから管理教育に反発した学生時代、そして前夫で戦場カメラマンだった故・鴨志田穣氏のアルコール依存症のことからどん底の生活まで、赤裸々に綴っては作品として昇華させてきた。そうした漫画からは、露悪的ななかに人間を深く見つめるあたたかな視点や、一筋縄ではいかない反骨心が滲み出ており、それこそがサイバラ作品の魅力でもあると思う。しかも、高校時代に飲酒を理由に退学処分となった際には、取材にきた保坂展人氏(現世田谷区長)と親交をもち、仕事も引き受けてきたというエピソードから、彼女にリベラル寄りの印象をもってきた人も多いだろう。
だいたい、これまでの西原氏ならば、高須氏の常識的に考えられない言動をつぶさにネタにして(これほど露悪に向いた題材もなかろう)、徹底して相対化して見せたはずだ。ところが現在、西原氏は作品においてそうした高須氏の政治的な部分には触れず、ほとんどノロケのような話に終始している。
このような“変容”を見せつけられると、西原氏はカネに目がくらんだのか?という気さえする。税務署との戦いを描いた作品や『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(理論社)をはじめ、カネの問題を取り上げてきた西原氏だが、結局、最後はやはりカネで、億万長者の高須氏に対し、悪質な言動は見て見ぬふりをして付き合っているのでは──そんなふうに訝しみたくもなる。