〈春画が法的にわいせつに該当するか否か。日本のわいせつに関する法律は極めて曖昧ですが、わいせつか否かの判断については、いくつかの考慮要件があります。
例えば「ストーリー性」。ストーリー全体の中で必然性があれば、エロ表現は認められるというもの。ずっとエロだと必然性がないと考えられます。また、「芸術性」があれば、わいせつではないと判断されることもあります。ただ、芸術性をどう判断するか。作者が「私は芸術家だ」といえば、その作品は芸術作品になるのか、その人が芸術家か否かを誰がどう判断するのか。さらに「細密性」の問題もあります。露骨に性器を表現するとわいせつになるが、そうでなければ問題にならないというものです。
では、春画はわいせつか否か。春画の特徴として、性器を大きく描いている。この点は露骨であり、エロを強調していると考えることもできます。
一方、デフォルメしていることでリアリティがなくなっている。また、春画は絵ですから、細密性もない。さらに今では額に入れて展示もされているので、芸術作品といって構わないでしょう。
何より今では、春画はあちこちで見ることができる。出版物も多数ある。ということは、社会通念上、春画は違法扱いされていない。よって、春画はすでにわいせつではない。そのように考えて問題はありません〉
今回、永青文庫で春画展が開かれる前にも、春画をテーマにした展示会が企画されては、美術館側が苦情を恐れたり、イメージを気にして自主規制したりで企画倒れになるといったことが繰り返されてきた。ここにきてようやく「春画」に光が当たった。また、今回の春画展を機に春画以外の浮世絵にも興味をもった若い人も多くいることだろう。春画のみならず、江戸時代の華やかな美術作品全体にもスポットライトが当たった今回の春画ブーム。そんな意義ある流れが今回の騒動で潰されてしまうのだとしたら、本当に残念なことである。
(田中 教)
最終更新:2016.08.05 06:51