“芸人”より“作家”としての扱いが増える又吉だが、彼も例外ではない?(「ダ・ヴィンチ」2015年7月号/KADOKAWA)
又吉直樹による『火花』(文藝春秋)が、純文学としては異例の230万部を突破し、さらに、鳴り物入りで日本での運用をスタートするオンラインストリーミングサービス・Netflixで2016年に映像化することも発表されるなど、又吉の芥川賞受賞フィーバーは、受賞から一カ月以上経ったいまも留まるところを知らない。
世間からこれだけの注目を集める「芥川賞」。しかし、同賞を受賞したからといって、それだけで専業作家として食べられるようになるとは限らないようだ。「宝島」(宝島社)15年10月号で、10年に芥川賞を受賞した西村賢太は語る。
「原稿料も受賞前と比べて1枚につき500円しか上がっていません」
「最近は昔と違って各出版社が横並びで、作家ごとの原稿料水準を申し合わせてますからね。特別たくさん払ってくれるところもない」
なんと、芥川賞を受賞したからといって原稿料はほとんど上がらないのだという。原稿料がダメなら、では、印税はどうか? 「夢の印税生活」なんて言葉もあるぐらいだ……。
しかし、そんなものは夢のまた夢。長引く出版不況、特に、純文学をはじめとした小説は商業的に苦戦を強いられているジャンルだ。
一冊の本を書いて作家が得られる印税額は出版界の慣例にならうと「本の定価×発行部数×10%-税金」という計算式になるのだが、竹内結子主演で映画化もされ、シリーズ累計100万部を超える『天国の本屋』(新潮社)というヒット作をもつ、松久淳ですら『中流作家入門』(KADOKAWA)でこう記している。
〈正確な数字は知らないけど、小説の新刊なんて1万部に届かない本が全体の90%とも95%とも言われている。5000部切ってる本の割合もそうとうなもの。つまり君たちはほとんどの本のタイトルすら知らないということになる。
じゃあいま本屋さんに並んでる君たちが読んだことがない1500円の新刊小説、仮に部数を5000部と推測すると作家自身にいくら入るか、計算してみてごらん。きっとその作家が1年くらいかけて書いた渾身の1冊、その印税。結論は簡単。
「食えないじゃん」
食えないんだよ。
だからみんな、会社勤めを辞めなかったり、講師とかのバイトをしなくちゃいけないんだよ〉
1年かけて75万円……。どんな賞を受賞しようと、いまや、作家収入のみで暮らせている人間などほとんどいないのだ。