とはいえ、実際には、この会議録の内容を文字通り“軍部の暴走”と考えるよりも、安倍政権による軍事国家化の顕現ととらえるほうが、より自然だ。第一次政権時に防衛庁を省に格上げした安倍晋三首相は、今年3月の衆院予算委員会で、自衛隊を「わが軍」と呼び波紋を広げたが、この宰相の頭の中は、すでに戦中並みの軍隊の増長と私物化を想定しているのだろう。
本サイトでも既報のとおり、昨年1月から2月にかけて、陸上自衛隊が米陸軍と、中東を模したアメリカの砂漠地帯で、対テロ戦を想定した大規模な日米合同訓練を行っていたことが判明している。今年8月の沖縄ヘリ墜落事故でも、特殊作戦の訓練中とみられる米軍ヘリに日本の自衛隊員が搭乗していた。また、先日8月31日には防衛省が16年度予算の概算要求を過去最大の5兆911億円で計上することを決めている。集団的自衛権の行使容認を閣議決定する前から今日に至るまで、安倍政権下でのアメリカ軍との一体化、軍事国家化は着々と進行していたのだ。
このように、今国会での安保法案をめぐる答弁や一部報道から、これまで国民が知ることのなかった安倍政権の危険極まりない本質が次々と明らかになっている。ところが、こうした状況を伝えるマスコミはほんの一部だ。
たとえば、冒頭に挙げた日米軍部間の“密約”疑惑について、2日夜のテレビニュースで詳しく報じたのはテレビ朝日『報道ステーション』とTBS『NEWS23』だけ。また、『NEWS23』は、先日本サイトでも報じた、安保法案が「アーミテージ・ナイリポート」をトレースしたものであるということについても取り上げたが、これらに関して、ほかのテレビ局は黙殺と言ってもいい状況にある。これはどういうことだろうか。
とりわけ、日米軍部間“密約”会議録は、安保法案に批判的な野党による抽象的な法案批判や安倍政権批判ではない、完全に物的証拠として提示された、政権にとって“爆弾モノの疑惑”だ。ニュースの優先度としては最上位にあると言って間違いないわけだが、それすらも、安倍政権の締め付けによって身動きできなくなっているということなのだろうか。
いや、もはや圧力の有無は関係ない。テレビ局の内部には、政権と懇ろになるためすり寄っている連中がいる。そういうことだろう。
戦中日本では、新聞などは検閲を受け、大本営に不利な報道は著しく制限されていた。だが、マスコミは決して“被害者”であっただけではない。権力の暴走の監視を放棄し、対外強硬論を煽った、あの戦争の“共犯者”でもあったのだ。そして今度は、当時は存在しなかったテレビが、そうした共犯者になろうとしている。
“軍部の暴走”に“マスコミの頽落”。やはり歴史は繰り返すのか。現在の腑抜けた報道姿勢を見ているとそう思わざるをえないが、いずれにせよ、主権在民の基本原則を無視し、身勝手にも戦争へ接近しようとしている安倍政権に対して、われわれひとりひとりが必死の思いでNOを言い続けるしかない。
(宮島みつや)
最終更新:2015.09.04 07:18