「主婦友だけでなく報道で名前をあげられた各社の営業担当は、報道のあと、すぐに紀伊国屋書店の本社まで呼び出されたらしい。『君たちは再販制度を終わらせる気か!』と、現在、紀伊国屋で販売されているそれらの会社の本の返品もチラつかされながら叱られたそうです。実際は主婦友の抗議にあったようにほかの社も時限再販契約を結んだわけではなく今回の2割引セールに試しに一部書籍が参加したという程度で、なかには、『発売後一定期間を過ぎた書籍は、どこの書店でも値段を下げてよい』というルールで、アマゾンだけに特例を認めたわけではない出版社もあったようですが、アマゾンと日経が『契約』なんて言葉を持ち出して“盛った”報道をしたせいで、大迷惑を受けたかたちです。でも、紀伊国屋はアマゾンに対し、よほど腹に据えかねたんでしょうね。呼び出したうえ返品まで持ち出した書店は紀伊国屋だけだと聞いています。今回の件も、それに端を発したものじゃないかと見られています」(出版流通関係者)
本稿の冒頭でも紹介した通り、終わりのない出版不況のなか、書店をめぐる環境は厳しい。そんななか、ネット書店は確かに便利かもしれないが、書店はただ本を売るだけの場所ではない。文化を拡げ、発展させるための“サロン”としての機能も持つ。先日、惜しまれながら閉店した、セゾン文化の象徴であったリブロ池袋店など、文化交流の拠点として大きな役割を担った書店は多い。
さらに、リアル書店の減少で憂慮すべきなのは、極端な一強多弱の状態だ。ベストセラーとなった本、売れている本だけがさらに売れ、それ以外の多くの本はまったく売れないという状態だ。
本を買う際は、目当ての本を探して買ういわゆる「目的買い」と、店頭での偶然の出会いによるものとがあるが、昨今の一強多弱の背景には「目的買い」の増加がある。一方で、無数の本が誰の目にも止まることなく葬り去られる。
「目的買い」ではネット書店が圧倒的に有利。偶然の出会いはネット書店では、ほとんどない。このままネット書店だけが幅をきかせ、リアル書店がなくなってしまえば、本の多様性そのものも損なわれることになってしまう。
そういう意味では、アマゾンに正面切って対抗しようという紀伊国屋の姿勢を支持したいところだが、一方では、一時的に村上春樹の本だけを買い占めても、ただの意趣返しであり、リアル書店を救うことにはならないという冷ややかな見方もある。
リアル書店がこれから先、どうアマゾンに対抗して生き残りをはかっていくのか、出版社や作家も含めてそろそろ本気で知恵を出していく時期にきているのではないだろうか。
(井川健二)
最終更新:2015.09.01 06:36