斉藤利彦『明仁天皇と平和主義』(朝日新聞出版)
安倍晋三首相は14日に、戦後70年の談話(安倍談話)を出す予定だが、その方針が二転三転している。当初、安倍首相は「おわび」や「侵略」という言葉を入れないつもりだったが、途中で入れざるを得ないと方針変更。しかし、一方では、支持基盤である右派の動向を気にして、今も違う形の表現を模索しているとの見方もある。
こうした迷走の背景に、公明党からの圧力や国際社会への配慮があるのはもちろんだが、もうひとつ理由があるようだ。それは、官邸が天皇の「お言葉」を怖れているからだという。
天皇は毎年8月15日に全国戦没者追悼式に出席して「お言葉」を述べる。惨禍が再び繰り返されないことを願い、戦渦に倒れた人を追悼し、世界平和を祈る――という内容で、この20年近くは文面もほぼ決まっている。ところが今年は、天皇が独自の「戦後70年のお言葉」を発表し、このところの安倍首相の歴史認識や日本国憲法軽視の動きを覆す談話を発表するのではないかと言われているのだ。
このことをいちばん最初に伝えた「週刊ポスト」(小学館)2015年8月7日号には自民党幹部の次のような匿名コメントが紹介されている。
「終戦記念日に陛下が先の大戦についてメッセージをお出しになるのではないかという情報は5月頃から流れている。陛下は先帝(昭和天皇)から、先の大戦で軍部の独走を阻止できなかった無念の思いや多大な戦死者と民間人犠牲者を出したことへのつらいお気持ちを受け継がれている。万が一、お言葉の中で首相談話から省いたアジア諸国の戦争被害に対する思いが述べられれば、安倍首相は国際的、国内的に体面を失うだけでは済まない」
また、天皇の学友である元共同通信記者の橋本明氏は同じ号の「週刊ポスト」でこう話している。
「(前略)安倍首相は国際情勢の変化を理由に憲法解釈を変え、米議会演説で公約した安保法制を無理に成立させようとしている。陛下は口に出せずに苦しんでおられると思います」
明仁天皇と美智子皇后が、安倍政権が進める軍拡路線、そして憲法改正の動きに強い危機感を抱いていることは本サイトでも繰り返し伝えてきた。その天皇が、安倍政権に“対抗”するための「お言葉」を別途用意しているというのである。もし事実だとしたら、尋常ならざることである。