じつは、こうした「平和」「反戦」を訴える紙面は「いちご新聞」創刊当時からつづくもの。いまから40年前、1975年に発行された第2号目の紙面には、「いつ戦争はやむの」という大きなタイトルのもとにベトナム戦争の問題をピックアップ。憲法記念日についての記事では、悲惨な戦争の反省のもとに平和憲法が生まれたことを解説しながら、「私たちは、私たち自身の国の憲法をほこりに思います」とその大切さを説く。この記事を再録した今年発行の5月号でも、キティちゃんの絵とともに「暴力や武力は絶対ダメ。自分がされていやなことは、相手にしない」と重ねて強調している。
こうした「いちご新聞」の方針は、〈いちごの王さま〉が打ち出しているらしい。いちごの王さまとは、頭が巨大ないちごでできているサンリオのキャラクターだ。王さまは長きにわたっていちご新聞紙上で「いちごの王さまからのメッセージ」を発信しているが、“中の人”は、創業者である辻信太郎社長。経営者でありながら童話などの児童文学作品も数多く発表している作家でもある。
前述した「いちご新聞」8月号で、いちごの王さまは〈王さまにとって、8月は1年の中で、最も想い入れの深い月です〉といい、このような言葉を綴っている。
〈戦争は多くの人の命を失い、多くの人が傷つき、その傷跡は何年、何十年、何百年経っても消えることはありません。 その時、大学1年生だった王さまは、この戦争で同級生を数人失いました。
この経験から、心に深く刻み込まれたのは「争いからは何も生まれない。国と国、民族と民族、人と人は如何なることがあってもお互いに争うことなく、仲良く助け合って行くことが本当に大切なことだ」ということです。
王さまはこのことをたくさんの人に伝えたくて、今から55年前の8月10日にこのサンリオを設立しました〉
戦争の経験と平和を祈る気持ちからサンリオは生まれた──。そう考えると、ポムポムプリンやマイメロディたちが涙を流しながら反戦を訴えるのも、当然の話なのかもしれない。
辻社長は、自身が執筆したビジネス書『これがサンリオの秘密です』(扶桑社)でも戦争体験に触れている。辻社長は山梨県の〈五〇〇年つづく旧家〉という裕福な家庭に生まれたが、13歳のときに母を亡くし、伯母に預けられることに。しかし、そこで〈いまでいういじめ〉に遭い、さらには社会も戦争が激化していく暗い少年時代を送ったという。疎開先では「飯を食いすぎる」「糞をしすぎる」となじられる日々……そうした〈つらく悲しい思いが、私をギリシャ神話の世界、詩や文学への強い憧れへと誘ってくれたのかもしれません〉と振り返っている。