「静かなるアフガン」が放送自粛になった直後、長渕は「Rooftop」02年7月号でロフトプラスワンの平野悠のインタビューを受けているのだが、そのなかで「音楽でいうと何に一番影響を受けました? 」という問いに、こう答えている。
「やっぱり関西フォークです。加川良先輩とか友部正人先輩とか。連合赤軍のあさま山荘事件の時には、友部正人先輩がトーキング・ブルースで唄ったんですよね、「おお せつなやポッポー 500円分の切符をくだせぇ」(「乾杯」)って。かっこよかったなぁ」
関西フォークといえば、60年代末から70年代にかけてのフォークブームのなかでももっとも政治色、反体制色の強かったムーブメント。全共闘運動が激化するなか、反戦や差別、社会への批判を歌詞にして、新宿駅西口広場のフォーク・ゲリラなど、ベトナム反戦運動をより大きなうねりへと広げる役割を演じた。長渕はその音楽にもっとも影響を受けたといって、こう胸を張るのだ。
「僕があの時代のフォーク・ムーヴメントの精神をきちんと継承している最後の世代だと思います。フォークに多大なるカルチャー・ショックを受けて、それを自分のスタイルに変えてやっているという。どちらかというと、保守的な表現形態をとっています」
当時はすでに、格闘技やヤクザドラマの主演などに感化されてどんどん“マッチョ”な面を前面に出していた長渕だが、原点はやはり反戦プロテストソングにあると自覚していたのである。
しかし、その長渕も最近は肉体鍛錬や格闘技への傾倒がさらにエスカレートして、ほとんど政治的な発言はしなくなっていた。むしろ、マッチョ的な発言のほうが目立っていた。
それが、ここにきて突如、ここまで踏み込んだ安保法制批判、安倍批判発言をしたというのは、やはりそれくらい現状へ危機感をもっているということだろう。安倍政権のあまりの横暴に、長渕の根っこにあった「フォークの精神」に再び火がついた──。そう言ってもいいかもしれない。
冒頭で紹介した『ワイドナショー』で、長渕はこう宣言している。
「子供たちが(戦争に)行くんだよ。僕ら行かない人間がやるべきことは、絶対にこういうことをしないようにするにはどのようにしたらいいかって考えることだと思うんですよ。
そこに怒りの刃を向けることをやるべきで、僕は銃をギターに変えてやるから」
長渕の新しいプロテストソングはどのようなものになるのだろうか。ファンではまったくないが、ちょっと楽しみである。
(井川健二)
最終更新:2015.07.25 06:03