本書には、イスラム国に斬首されたアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏の母親のこんなコメントが掲載されている。
「我々が文明社会の一員であり、なおかつ身代金を支払いたくないというのであれば、人質が殺されるのを防ぐ方法が必要でした」
安倍首相が「テロリストと交渉しない」のであれば、それとは別の方法を模索し、見つけ、解決する必要があった。実際、日本政府には中東とのパイプを生かし、アメリカとは違った対応をする能力もあった。しかし安倍政権がそれを模索した形跡はない。
では、今回はどうなのか。もし現在、安田氏の拘束、解放に関し、政府や外務省など関連機関が秘密裏の交渉を水面化で行われているなら、教訓が生かされているということだろう。しかし、冒頭にも言ったように、残念ながら、その形跡はまったくない。
後藤さんと湯川さんが殺害された後、安倍首相は「日本人にはこれから先、指一本触れさせない」と啖呵を切った。また、一連の集団的自衛権や安保法案でも「日本国民を守り抜く」という言葉を何度も繰り返している。
しかし、実際には安倍首相は自国民の命など、なんの関心ももっていない。この男にとっては、自国民の命などより、アメリカとの関係、政局、そして自分の祖父コンプレックスの方がよっぽど大切なのだ。
もはや、政府には何も期待できない。ただ、安田氏解放に向け、湯川さんのケースのように民間人やジャーナリストが水面下で動いている可能性もある。もしそうだとしたら、せめて政府は妨害だけはしないで欲しい。
湯川さん拘束で、常岡氏らの動きが実行されていたら、湯川さんが殺されることはなかったし、後藤さんも湯川さんを救出するため危険地帯に行く必要もなかったのだから。
いずれにしても、安田さんの消息について注視を続けたい。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.07.18 11:03