そこには、ゲイの客がもつ、セクシャルマイノリティだからこその「慎み」「思いやり」のようなものが関係している。
「どこか後ろめたさがあって、その裏返しに思いやりっていうか、そんなのがあるんです。それでいて同じ男っていう気安さもあって。でも女性はそうじゃないんですよね。要するに剥き出しなんです」(前掲書より)
普段、そんな男性客を相手にしているだけに、珍しく女性客を相手にすると、自分たちは女性客から“種馬”のように見られているんじゃないかと感じる人もいるほどだ。
しかし、筆者である松倉すみ歩氏は、ボーイたちがそう感じる理由として、「思いやり」以外にも理由があると分析している。
男性と性行為をすることはノンケの彼らにとって「非日常」であり、そのなかでは、自分が身体を売っているという意識が希薄になるが、女性とセックスすることは日常と地続きであり、それが「自分はいま売春している」という事実をまっすぐに突きつけてくるので戸惑いの感情が生まれてくるのではないか、というのだ。
さて、冒頭に紹介した「宝島」の記事では、“貧困”がウリ専に走らせていると書かれているが、貧困以外の理由でウリ専の扉を叩く人も、もちろん存在する。そのなかでも多いのが、芸能界に入るきっかけを求めてボーイになるパターンだ。
クリエイティブな職についている人はゲイの比率が高いと言われている。ウリ専の仕事を続けていれば、芸能関係の職種の客と出会う機会も多い。そういった出会いのなかで、業界関係者に見初めてもらおうと考える音楽家やモデル、俳優の卵は多い。実際、真偽不明の噂レベルの話ではあるが、演歌歌手の氷川きよしや俳優の成宮寛貴は、デビュー前にウリ専の経験があったのではとも言われている。
以上、紹介してきたウリ専の世界だが、いくらお金を稼いでも、貯金などはまったく増えず、生活状態がより不安定になるケースが多いという。その理由は「金銭感覚の乱れ」だ。ちょっとした移動にもタクシーを使うようになるなど、小さなところから確実におかしくなっていく金銭感覚。一度壊れたその感覚は復活することはなく、何度足抜けしても、またウリ専の世界に復帰してくる人は後を絶たない。
どうしても仕方がない事情があったとしても、夜の世界に足を踏み入れるのであれば、相当の覚悟と自制の気持ちを持ち続けていなければ、結局、“貧困”から抜け出すことはできない。それどころか、昼の仕事に戻ることすらも困難にさせてしまう。厳しい世界なのである。
(田中 教)
最終更新:2016.08.05 06:39