独身だった加藤さんは正社員の仕事を辞め、10年間介護を続けた。両親の死後、50代半ばとなった加藤さんは新潟の実家を引き払い、首都圏に出る。65歳まで介護の仕事で働き、年金を受け取るようになると、厚生年金がわずかに9万円であることが判明する。「両親の介護離職による年金加入年数の少なさ、低賃金などから支給される年金は少なかった」のだ。
糖尿病に、介護の仕事で患った腰痛で働くこともできず、500万円ほどあった貯蓄も瞬く間に消えてしまった。年金支給日前には野草を食べて暮らしたほどだ。
「野蒜(のびる)って知っているか。見た目がエシャロットとかラッキョウに似た小さな野草、一時期はそれを主食にしていてさ。それを食べて暮らすんだよ。よもぎとかふきのとう、つくしなんかも採っていたな。野草には救われた。それがなかったら餓死していたかもしれないと思うときもあるよ」(同書より)
現在、加藤さんは厚生年金に足りない部分の約4万円は生活保護を受け、家賃5万円で滞納していたアパートから低家賃の住宅に転居し、健康状態も回復することができた。
これらは、単に「かわいそう」といった同情や「自己責任」「自助努力」で解決できる問題ではない。簡単に“下流老人”に転落しかねない家族扶助を前提とした年金制度、負担ばかりが高まる医療費に家賃、「経済優先・弱者切り捨て」の原則に基づいた社会構造を見直すべきなのだ。
だが、現実は逆だ。すでに今年8月から、介護保険制度の改正で160万円以上の所得の人は負担額が倍になることが決まっているが、安倍政権はさらに社会保障費のカットを計画している。
自民党は稲田朋美政調会長を財政再建特命委員長にすえ、年間5000億円の社会保障費をカットする計画を進めている。これから先、介護保険はもちろん、医療、年金、生活保護と、あらゆる分野で、負担増、支給・サービス減の改悪が進んでいく。
絶望した老人が次々に自死を選ぶ。そんな社会はすぐ目の前に迫っているのだ。
(小石川シンイチ)
最終更新:2015.07.02 07:21