ひときわ目をひく水色の本棚は「反ヘイト棚」
その後、お店のオープンに合わせて「反ヘイト棚をわざと大きめに作りました」と宮崎さんは話す。
棚の本たちは、自分自身が尊敬する出版社との直接の取引を中心に選んだ。「どこにでも置いている本を店に置いても仕方ない」と考えた宮崎さんは、たとえマイナーでも「自分のところから出している本を大切にしている」出版社の本を優先的に仕入れるよう心がけたという。
「反ヘイト棚」をよくよく見ると、ブラック企業や貧困問題、集団的自衛権などなど、ヘイトスピーチとは少し異なるジャンルの品々も並んでいる。
「実はお店の裏テーマは『生存権』なんです。憲法25条にも『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』とありますよね。日本に住むあらゆる人にとっての生存権を大事できるような本選びを大切にしています」
それまで差別問題に深い関心を持っていたわけでも、身近に在日の友人がいたわけでもなかったという宮崎さん。ここまで強く問題にコミットできたのはなぜなのだろうか?
「元から戦後責任や従軍慰安婦、植民地支配の問題は興味がありました。それでも、90年代後半に歴史教科書の問題が起こったときなんかはまだ客観視していたと思う。今回『良い朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ』という在特会のプラカードを見たときに、自分自身が『当事者』として『対決せなアカン』って思ったんですよね。傍観者じゃなくこの人らと同じ日本人の当事者として、NOの意思表示をしなきゃいけないなって」
あくまで「日本人」当事者として問題に関わる宮崎さん。黒人の・黒人による・黒人のための本選びを行うNMABとの違いもここにありそうだ。
「うちのお店は『マイノリティのため』というよりは、普通の人、今まで社会問題に関心のなかった人に『気づき』を与えられる場所にしたい。生活保護バッシング、沖縄問題……なんでもいいんですが、今までそういう問題をあまりよく知らなかった人に来てほしいと思っています」
最後に、現在の書店や出版業界のありかたに対して望む点を訊ねてみた。
「やっぱり新刊の点数が多すぎですよね。市場に出る本は1日200点とも言われています。出版業界の現状として、1冊あたりの刷り部数を減らして新刊の点数を増やすことにとよって自転車操業的にやっているところがあるんですけど、あまりにも多いので出てもすぐに過去のものになってしまう。もうちょっと1冊ずつの本を長生きさせてほしい」
店をオープンして4ヶ月。現在ではお客に「主張してる棚ですね」「わかる人にはわかる」と声をかけられることもあるという。戦闘性をアピールするのではない。選りすぐった本たちを大切に並べることで、こっそり「主張」する──書肆スウィートヒアアフターは、そんなひそかな「闘う本屋」だった。神戸に行く機会があれば、是非この店に立ち寄ってほしい。じっくり棚を眺めれば、きっと今まで知らなかった世界への関心が芽生えてくるはずだ。
(松岡瑛理)
最終更新:2017.12.23 07:18