テレビでの出演者の言動が不謹慎とされ、世間のバッシングを受けるということも、どうやら昔から珍しいことではなかったらしい。たとえば、70年の日航よど号ハイジャック事件の際には、生番組での中山の発言が「失言」と受けとめられ、テレビ局には抗議電話が殺到、週刊誌でも批判された。放送中、よど号は韓国の空港に一旦着陸し、犯人グループの要求どおり北朝鮮に向かうかどうか皆が懸念していたところだった。なかなか進まない事態に中山は、いたずらに離陸を引き延ばし関係者を危機に追い込んでいる政府への反発もあって、「いまごろはもう北朝鮮に着いて、飛行機に乗ってた人たちは朝鮮料理でも食べてるかと思ったのに」というような発言をしたという。だが、これがなぜか「いまごろはみんなで朝鮮料理でも食べてるんじゃないかしら」という微妙に違うニュアンスで受け取られ、非難されることになったのだ。結局、司会の青島幸男や番組スタッフのフォローもあり、騒ぎはすぐに収まったが、これがネット時代のいまならもっと炎上して、中山が番組を降板させられるという事態になっていたかもしれない。
テレビがつまらなくなった、オワコンだと言われて久しい。だが面白い番組というのはいつの時代でもごくわずかだったのではないか、という気もする。『お荷物小荷物』もまた、その数少ない番組の一つだったはずだ。政治的なテーマをとりあげながら多くの層に受け入れられたこのドラマは、たしかに70年代初めという時代だからこそ生まれた部分はある。それでも、いまだってドラマでどれだけハードな政治的・社会的なテーマをとりあげようとも、工夫しだいでいくらでも視聴者の支持を得ることは可能ではないのか。冒頭にあげた『問題のあるレストラン』が男社会に対するメッセージを込めつつ、エンターテインメントとして楽しむことができるのは、まさにそれをやっているからだろう。
(近藤正高)
最終更新:2017.12.19 10:11