こうした『殉愛』の嘘を指摘するのは、たかじんの前妻の智子氏(仮名)も同様だ。
『殉愛』では、たかじんの骨上げの前に智子氏がさくら夫人に対し「見たことある? 人体模型みたいで、結構グロいよ」と耳打ちする場面が描かれているが、これを智子氏は「これまでの人生で、「グロい」という言葉を使ったことがないんです。これ、若者の言葉ですよね」と反論している。
また、密葬後の食事のシーンでも、『殉愛』は智子氏とともに長女のH氏が〈きつい調子で〉(『殉愛』より)たかじんの死を知らせなかったさくら夫人を責め立てるシーンがあるが、「まず、Hちゃんは、こんな関西弁でワーッというような言い方はしてませんでしたね。「おばあちゃんとおじさんたちは、どこに手を合わせればいいんですか?」っていう感じで、さくらさんに聞いたんですよ」と、H氏も脚色して描かれていることを指摘。そして、「むしろさくらさんのほうが、急にキレて豹変するような感じでしたね」と印象を述べている。
さらには、たかじんの実弟である家鋪渡氏も同書に手記を寄せている。そのなかで、たかじんと親族の関係は、百田氏が書いたような〈縁が切れているのと同じ〉という状態では決してなく、交流がつづいていたことを、家族と笑顔で写真におさまっているたかじんの姿で実証。入院する病院すら教えてもらえなかったことの悔しさを滲ませている。
K氏や前妻の智子氏の証言、渡氏の記述は、『殉愛』が意図的に省いた“不都合な真実”をここぞとばかりに暴いているが、しかし同書の追及はこれだけに終わらない。百田氏が取材を怠った人物がぞくぞくと登場。『殉愛』がいかに事実とは違う物語であるかを語り尽くしているのだ。その最たる例が、さくら夫人の2番目の夫であるD氏へのインタビューだ。ここでD氏は、『殉愛』では描かれなかったさくら夫人の信じがたいエピソードを語っている。
そして、同書のなかでもっとも衝撃的なのは、たかじんメモの筆跡鑑定結果を掲載していることだ。
筆跡鑑定にかけられたのは、たかじんが桃山学院高等学校(以下、桃山学院)の温井史朗校長に宛てたとされるメモだ。桃山学院はたかじんの母校であり、学長の温井氏は同期の人物である。たかじんは遺言書に、たかじんが立ち上げたボランティア団体「OSAKAあかるクラブ」に2億円、桃山学院に1億円を寄贈することを明記。だが、すでに「週刊朝日」(朝日新聞出版)や「サンデー毎日」(毎日新聞社)が報じているように、さくら夫人と百田氏はOSAKAあかるクラブに対し、遺贈の放棄を迫ったという。