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ビジネス本が語る企業の「進化論」は大ウソ! 99.9%が絶滅する現実

 古生物学の常識では、絶滅種の大部分は、競争に敗れて滅びるというより、たんに「運が悪い」せいで滅びるのだという。いわば、理不尽な仕方でこの世からの退場を余儀なくされるのだ。もちろん競争は存在するが、競争のルールそのものが運によって決まってしまうのが、この世界なのである。

 そう考えてみると、人間の社会も同じではないか。企業の存続ひとつをとってもそうだ。さまざまな会社が浮かんでは消えていく。何十年も存続するのはごくごく一部で、大多数は泡沫である。しかも、産業構造や政治体制の変化といった“環境要因”は一個人や一企業の努力や能力でどうこうできるものではなく、ほとんど運の問題だ。たとえば最近でいうと、原油価格の下落によって自動車メーカーなどは儲かっているが、他方で採掘業者などはコストをペイできずにバッタバタと倒産している。なお、原油価格は株式市場みたいに投機で上下するから、たまたまこれが逆だったら、採掘業界はガッポガッポで自動車業界は阿鼻叫喚というわけ。ようするに賽の目しだいってこと。

 それなのに、自己啓発系ビジネス書は自分たち(書き手と読者)が生き残りの「0.1パーセント」に属すると勝手に仮定する。確率的にいって、むしろ「99.9パーセント」の側に属すると考えるのがマトモじゃないのか?

 もちろん、人は成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。成功したあと失敗するかもしれないし、失敗したあと成功するかもしれないし、ずっと成功しっぱなしかもしれないし、ずっと失敗しっぱなしかもしれない。しかしそれは「自己啓発度」の多寡によって決まるのではない。“ビジネス進化論”の教条が見本にしているはずの本家本元の進化論が教えるのは、成功も失敗も環境と能力のマッチング/ミスマッチングによって決まるのであり、その大部分は運が左右するということなのである。

 結局、自己啓発系ビジネス書が語る「適応」や「進化」は、自らの願望を社会や自然に押しつけているだけではないか。というか、これって「成功」という餌をちらつかせて、本来どうにもできないことをどうにかできると言いくるめる詐欺なんじゃないだろうか。

 本書から学問的な用語を引いてくれば、それは「生存バイアス」と「公正世界仮説」という認知バイアスを利用したトリックだ。こうした詐欺に乗る「意識の高い」読者は、嬉々として成功者の自慢話を聞き、それによって自己を啓発した気になる。だけど、本物の進化論が教える真実(99.9パーセントが絶滅すること、しかも運が悪くて絶滅すること)を前にしたら、自己啓発系ビジネス書の号令は、なんと虚しく響くことか……。

 そんなことなら、むしろ失敗者・落伍者の累々たる屍からなにかを学ぶ謙虚さを身につけることから始めるべきだと思うのだが、どうだろうか。
(都築光太郎)

最終更新:2017.12.13 09:16

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