調べてみると、たしかに昨年春頃から、ネトウヨの個人ブログなどで「アンジェリーナ・ジョリーが反日映画の監督をしている」などという話題が広がっており、制作中止・配信撤回を意図する署名活動などを拡散する動きがあった。
そしてネトウヨたちの騒ぎに丸乗りするかたちで、大手マスコミがこの映画を取り上げたのである。
まず、「週刊文春」(文藝春秋)が昨年、6月26日号で、「勘違い女優が撮るトンデモ反日映画」というタイトルのワイド記事を公開。「原作が日本人の残虐性を誇張する“トンデモ本”」としてネット上で話題になっていると紹介した。そして、〈何千人もの捕虜が(中略)人肉食の儀式的行為で生きたまま食べられた〉という原作の一節を引用し、「看過できない」「歴史をでっち上げるのだけはやめてほしい」と煽った。
さらに、昨年12月6日になって、お決まりの産経新聞が参戦して、こんな調子で書き立てた。
「(原作には)『捕虜たちが焼かれたり、人体実験で殺され、(日本の)古来からの人食いの風習で生きたまま食われた』などと捏造されたストーリーが史実のように描写されている」
「『映画にそうしたシーンがあれば、中韓が政治的に利用しかねない』と懸念する在米日本人もいる」
その在米日本人とやらは……と指摘するのは野暮なのでやめておくが、いずれにせよ、文春と産経がネトウヨに燃料を投下する商売をしたことで、批判が一気に広がり、映画が公開できない状態に追い込まれたというわけだ。
しかし、これらの記事もよく読むと、すべて原作をベースにして語っているだけで、映画を観たという証言はない。前述の町山氏もくだんのラジオで「映画が完成したのはついこの間なので。日本では誰も見ていないのに、と思いましたけどね」と皮肉まじりに語っていたが、ようするに、ネトウヨも保守メディアも映画を見ないで喚きたてていたのである。
自分の理解や知識が及ばない事象や人びとを片っ端から“敵”“反日”と設定するネトウヨならありうる話だが、まさかマスメディアがこんな恥ずかしいレッテル貼りに加担していたとは……。それは冒頭に紹介した読売のインタビューも同様だ。読売は「食人」のシーンがないとわかってもなお、「中国での公開で反日感情が高まる懸念もあるが」「日本では映画の内容に警戒感もある」と妄想質問をぶつけている。