経営委員会は、会長の任命・罷免権ほか重要な権限を持つNHKの最高意志決定機関で、その審議決定は経営委員12名のうち9名以上の承認を必要とする。つまり、総理の「お友だち」4人がいれば、総理の意にそぐわない決定は簡単に阻止できるということだ。
経営委員によって「民主的」に選ばれた会長には、副会長や理事、放送総局長などの任命権がある。籾井会長は就任直後に、まず理事10名に日付を空白にした辞表の提出を要求し大きく批判されたが、その後も着々と新人事に着手。局内の全番組を統括する放送総局長や、放送の指針を決める経営企画統括、海外に向けて国策や政策をアピールする場でもある国際放送の統括など、重要ポストの人事を、極めて安倍政権に近しい人物で固めている。
NHKのホームページには過去の経営会議の議事録が公開されているが、会長就任直後の人事采配に関する、4月22日の議事録はさながらドラマのような「炎上」ぶりだ。退任する理事が会長就任以来のNHKの「異常事態」を涙ながらに訴え、事前の報告なしに人事采配の決定事項を報告する会長を強く批判。だが、籾井氏はどこ吹く風で、その決定を「会長の専権事項」と押し切っている。
さらに昨年6月には、通例として年に1度だった局内一般職の人事を、「今後は必要に応じて随時行う」と職員向けのサイトで報告。これは実質的には「気に入らなければいつでも飛ばすぞ」宣言に等しく、職員をますます萎縮させる効果を生んでいる。冒頭の爆笑問題の一件も、春の人事異動を前にした現場の「自粛」もあったのではないかという声もある。
「番組改変なんて危険な橋を渡る必要なんてもうないですよ。人事を押さえてしまえば、あとはNHKの伝統芸である〈忖度〉気質が作用して、いとも簡単に安倍放送局の一丁上がり」。ある職員は自嘲的にこう語る。
実際、第二次安倍政権後のNHKの報道姿勢は、目に見えるかたちで急激に変化している。特に顕著なのが、「ニュースウォッチ9」に代表されるニュース報道だ。NHKのOBを中心とする市民団体「放送を語る会」が昨夏行った調査によれば、7月1日の集団的自衛権閣議決定までの1ヶ月半の間に、同番組が集団的自衛権を扱った総放送時間は167分。その7割が、与党協議や首相・政府関係の動きを伝えたもので、反対の立場の意見はわずか33秒。抗議デモの映像は総計44秒のみだったという。大越健介キャスターのコメントも「自衛隊の活動は(アメリカへの)協力だけではなく、日本への脅威を抑止する性格が強まる」と、まるで政府見解のような解説ぶりだった。他のニュース番組でも、安倍総理の演説などの動向や、インタビューなどが目に見えるかたちで増え、つい先日も、フランスでの新聞社襲撃テロや沖縄・辺野古での基地工事強行など、国内外で重大事件が勃発するなか、静養中の安倍総理が岸信介の墓参りをする映像を放映。「さすが安倍さまの犬HK」とネットでも揶揄されていた。