だが、同書で語られるアムウェイの歴史からはポジティブの裏の“ブラック”ともいうべき思想が垣間見れる。
1959年にアメリカ・ミシガン州でリッチ・デヴォスとジェイ・ヴァン・アンデルによって創業したアムウェイだが、2人はもともとはカリフォルニアのサプリメント(栄養補給食品)会社・ニュートリライト社のディストリビューターだった。このニュートリライトがマルチレベル・マーケティングの先駆けだ。
しかし、48年に米・食品医薬局(FDA)がニュートリライト社のパンフレットの記述の多くが「誇大広告」だと告発し、ニュートリライト社の経営が失速したために新規ビジネスとしてアムウェイを立ち上げたのだ(のちにアムウェイがニュートリライト社を買収しサプリメント事業として展開することになる)。
ニュートリライト社がサプリメント中心だったことに対して、アムウェイは多目的洗剤L.O.C.を主力商品としてスタートする。しかし、販売面では、ニュートリライト社のディストリビューターを使うことによって急成長が可能になった。なお、「アムウェイ」という社名は「アメリカン・ウェイ」が由来だ。「フリーエンタープライズ(自由な起業家精神)による体制こそが、アメリカの経済をずっと動かしてきた原動力であり、その中でビジネスを経営する自由ほどアメリカを象徴する事象は他にはない」と考えたためだ。
急成長するにつれ、社会からの視線も厳しさを増す。1975年、連邦取引委員会(FTC)が告発。「アムウェイのセールスプランは『ディストリビューターを増やし続けることで成り立つピラミッド型ディストリビューター方式』と主張し、そうした方式は『必ず失敗する』もので、『詐欺的な行為である可能性が看過できないほど高い』と断じた」のだ。
ところが、2年半かけて裁判で争った末、「報酬が新規会員の勧誘ではなく、最終消費者の製品販売のみに基づいていたこと」から「ピラミッド商法ではない」との判決を得て、アムウェイのセールスプランは合法的とのお墨付きを得ることになった。
この背景には、アムウェイの共同創業者リッチ・デヴォスが政治的に働きかけを行なったことも大きいようだ。アメリカン・ウェイを体現する共和党を積極的に支援。「フリーエンタープライズ体制」のレーガン政権時代には共和党全国委員会の財務会長に任命されたほどの関係だからだ。その後、日本アムウェイは10番目の拠点として1979年に設立され、日本でも急成長をとげる。
しかし、その後も「アムウェイに騙された」と元ディストリビューターからの批判は続くことになる。こうした批判に対し、共同創業者リッチ・デヴォスは次のように反論する。
「アムウェイビジネスに挑戦して失敗した人たちもたくさんいるが、そうした人々も自分自身に正直になれば、製品販売やスポンサー活動など必要な努力をしていなかったと認めざるをえないだろう。ビジネスを興すには、一生懸命に長時間働いて、障害があってもくじけず、前向きな姿勢を貫くことが必要だ。こうした素質を最初から持たない、もしくは身につけることができない人たちは、別の人生を模索した方がよい。私には、アムウェイに挑戦して自分向きではないと判断した人たちを批判するつもりはまったくない。しかし、アムウェイを批判する前に、自分の行動に責任を持ってほしいと思う」
つまり、成功した人以外は「必要な努力をしていなかった」。失敗した責任は自分で負えという自己責任論を展開するのだ。