第5位 創作疑惑をスルーしてノンフィクション界の星になった石井光太
石井光太といえば、東日本大震災を扱った『遺体―震災、津波の果てに―』(新潮社)が10万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされたほか、NHKの「NEWS Web」でもレギュラー出演するなど、ノンフィクション界のスター的存在になりつつある。
今年も久々の大作『浮浪児1945‐戦争が生んだ子供たち』(新潮社)を出版し、朝日・読売ほかほぼすべての新聞書評で好意的に評された。大手出版社の編集者は語る。
「これまではイスラム圏の娼婦やインドの物乞いなど、海外ものが多かったが、今回は国内もの。来年の大宅賞を受賞する可能性はあるのではないでしょうか。筆力は十分だし、そろそろ賞をあげていい時期ではないでしょうか」
これまでも石井は大宅賞や講談社ノンフィクション賞に何度もノミネートされてきた。が、毎回問題になるのが、彼の剽窃疑惑である。
講談社が出す雑誌『G2』Vol.11に、第34回講談社ノンフィクション賞の選考会の模様が採録されている。選考委員の野村進は、『遺体』でノミネートされた石井の作品について、作り話ではないかと批判した。
〈彼のテーマと手法は一貫していますね。特に海外ものが作り話めいています。(中略)海外ものなら、どんなに作り話を入れてもバレっこないとでも思っているのかなあ。この手法を認めてしまうと、誰もしんどい海外取材はしなくていいという結論になってしまいますよ。取材困難な箇所は、全部創作で埋めればいいわけだから。(中略)このようなテーマでのノンフィクションの量産は事実上不可能なのに、なぜ次から次へと出せるのか。〉
石井の作品を10冊読んだという野村は、石井に公開対談を申し込んだが、石井は拒否したそうだ。野村はもし会えたら、石井の渡航履歴や語学力、取材内容を聞き取るつもりだったという。
石井の作品がご都合主義だというのは、選考委員の立花隆も同選考会でこう語っている。
〈中身の評価以前に、『遺体』の書き方はいくらなんでもおかしいでしょう。これはノンフィクションではなく、ほとんど小説のように思えます。〉
実際、石井は新潮社から『蛍の森』という小説集を出版するなど、ノンフィクションの世界から遠ざかっているようにも見える。いったい「新星」が批判を乗り越えてどう進んでいくのか、注目である。
ということで、2014年を振り返ると暗い話ばかりの事件簿になってしまった。石井光太を措いて考えれば、二人の大御所が醜態をさらし、二人の“安倍のお気に入り”にかきまわされた1年ということになるだろうか。来年は事件簿ではなく、ぜひベスト5をやりたいものである。
(本間究)
最終更新:2014.12.30 10:44