また、鼻血問題にしても、たしかに現状では医学的な根拠はないが、かといって、100%原発事故と無関係とは言い切れないだろう。実際、『美味しんぼ』原作者の雁屋以外にも、井戸川克隆・双葉町前町長なども前述のように鼻血が出ることを訴えており、12年の岡山大学や広島大学、熊本学園大学のグループによる調査で双葉町などの被災地に鼻血や倦怠感といった症状が多いとの中間報告があった。
しかし、国や行政はまともな診断や調査をやろうとせず、「健康被害はあり得ない」と繰り返し、健康被害を訴える作者を攻撃した。
いや、鼻血だけではない。福島県では、通常は100万人に1人といわれる子どもの甲状腺がんが、103人(通常の150倍から300倍)もの子どもに「ガンないしその疑い」が診断されたことが明らかになっている。さらに、甲状腺だけでなく、内分泌、脳梗塞、リュウマチなどいくつもの病気で全国平均より多い死亡率が指摘されている。
それでもなお、この国の権力者たちは「健康被害との因果関係はない」と繰り返しているのだ。
国や電力会社に少しでも不利な情報──被曝による健康被害などはその最たるものだ──は過小に評価し、科学的調査、アプローチを一切しない。審議会なども御用学者たちが集い、国や電力会社の意向通りの結果を発表するだけだ。これはかつての「原発安全神話」と同じ構造だろう。
しかも、こうした安全神話を唱え始めているのは、権力や原子力ムラの関係者だけではない。国民もすっかり安全神話に洗脳され、放射能による健康被害を少しでも指摘しようものなら、ネットなどで「非科学的」「風評被害」「差別」「放射能厨」などという批判にさらされる。放射能に対しものを言えば唇寒し。これが現在の日本なのだ。
いったい、この国の国民はいつまで、些末な問題に誘導されて本質から目をそらされ続けるつもりなのだろう。
ただ、救いは、そんななかでも声を上げ続けようとする者がいることだ。『美味しんぼ』原作者の雁屋は来年1月、この問題についての反論本を刊行する予定だという。
(伊勢崎馨)
最終更新:2018.10.18 04:46