そして、「志村、後ろ!」ばりに誰しもが既に気付いていることではあるが、秋元康がこれだけ国家の取り組みにコミットしてくるのは、2020年東京オリンピックの存在が大きい。組織委員会の理事にも当然のように名を連ねている。理事には政界・財界・スポーツ界からの人選が多数、他業界からは元・電通の高橋治之や写真家の蜷川実花などの名も並んでいるが、いわゆるイベントプロデュース力を期待されている人選は秋元康のみ。となれば、開会式・閉会式の陣頭指揮を彼が執る可能性も当然浮上してくる。彼が主導する「日本に生まれてよかった」が全世界に発信されるのは避けたい。
〈ニッポンは、世界中から尊敬されている映画監督の出身国だった。お忘れなく。〉というキャッチコピー、反芻する度に腹立たしくなる。秋元康はエッセイ集『おじさんの気持ち』(角川書店)で、自分が「“いいとこ取り”症候群」だと語っている。野球はペナントレースの終盤しか見ないし、マラソンはゴール30分前からしか見てないのに充分感動してしまったと書く。なるほどそうか、「“いいとこ取り”症候群」の人には、映画が作り出すそれぞれのシーンやそこに流れてきた歴史を広い視野で見つめることなんてできやしない。
この人にスポーツの祭典を任せることはできない。なぜって、彼はそもそもスポーツになんて興味を持っていないんだから。自分の「“いいとこ取り”症候群」を語ったエッセイからもう一カ所引用しよう。
「オリンピックもサッカーのワールドカップも世界陸上も、いつもは全く興味のないスポーツに一喜一憂できるのだから、僕のミーハーさもたいしたものである」
こう書いたのは、2020年東京オリンピック組織委員会理事の秋元康である。“お忘れなく”。
(武田砂鉄)
最終更新:2015.01.19 04:29