小説、マンガ、ビジネス、週刊誌…本と雑誌のニュース/リテラ

menu

オレオレ、ワンクリック…詐欺の帝王は元大手広告代理店のエリートだった

saginoteiou_01_141106.jpg
『詐欺の帝王』(文藝春秋)

「裏社会の人間はどうカネを稼いでいるのか、彼らはふだん何をどう考え、どうカネを得るために行動しているのか、彼らの間ではどんなシノギの種類があるのか……」

 こんな書き出しから始まるのはヤクザや組織犯罪集団、マフィアなどの取材で知られるノンフィクション作家、溝口敦の『詐欺の帝王』(文藝春秋)。この本は、こうした興味から取材をすすめてきた作者が、4年前まで詐欺業界の周辺で「オレオレ詐欺の帝王」といわれてきた男に接触。詐欺の世界について聞き取りを行い、書き上げたという。

 だが、同書を読んでいて印象に残るのは、詐欺の手法よりも、“帝王”といわれた男の意外な素顔と経歴である。

 男の名は本藤彰。もちろん仮名だ。グループが手がけていた詐欺は「オレオレ詐欺にとどまらず、ワンクリック詐欺、未公開株詐欺、社債詐欺、イラク・ディナール詐欺など多岐に渡る」という。
 
 “帝王”といわれれば、作者の代表作『食肉の帝王』(講談社)で取り上げられた浅田満のようなでっぷりした見た目を想像しそうになるが、本藤は「30代後半、身長178センチと背が高く、弁舌はさわやか。暴力臭はまるでなく」と爽やか男子のようなのだ。そのうえ「頭は非常に切れ、カタギのどんな仕事についてもきちんとこなしただろう」と作者は評している。実際「大学卒業後は大手の広告会社に5年ほど在籍」していた。なにも詐欺を働かなくとも十分勝ち組人生を送れたような人物なのである。

 さて本藤はどのようにして「詐欺の帝王」となったのか。九州出身、東京六大学のひとつに現役で合格した本藤はイベントサークルに入部。その年に「関東の全ての大学生イベサーを一同に集めた巨大イベント『キャンパスサミット』を設立」する。これは現在も続いており、過去19年間のイベント累計動員数は30万人を数え、タイアップCDは累計7万枚超の売り上げを記録している。「やれば絶対儲かる大イベントを企画、実施に持ち込む名手だった」という本藤の力の源泉は「学生を集める力、集客力」だった。この集客力に魅力を感じ集まってくる企業や、学生では借りることが困難な会場との間に介在する「箱屋」との実作業を通し強固な人脈を築き上げた。

 こうした経験が買われ、卒業後は大手広告会社へ就職。しかし03年、ケツモチをしていたイベサー「スーパーフリー」による集団強姦事件が発生する。「ケツモチをしていたくらいで無関係では有り得なかったが、学生と一緒に輪姦に加わるほど愚かでもなく、女性に飢えてもいなかった」ようだ。しかし「勤務する大手広告会社には何人かスーフリ出身者がいたこともあり、本藤も関与を疑われて」グループ会社に左遷、そのまま退社してしまう。

 次の仕事のあてがあるわけでもない。新卒で入った会社を早々に追われて途方に暮れてしまうところだが、本藤は「学生時代にケツモチや箱屋などで蓄えた資金があった。それを資本に何か新しい仕事を始められるのではないか」と考えた。そんなところに降って湧いたのが「五菱会のヤミ金事件」だった。スーフリ事件と時期を同じくして、ヤミ金、山口組直系五菱会に対する摘発が本格化。なんと本藤はこれに目を付ける。「今、五菱会は警察の捜索に追いまくられている。しかし本来、ヤミ金は儲かるのではないか。五菱会が手を引いてもヤミ金は生き残るのではないか」……そう考えた本藤はヤミ金を始めるのだった。

関連記事

編集部おすすめ

話題の記事

人気記事ランキング

カテゴリ別に読む読みで探す

話題のキーワード

リテラをフォローする

フォローすると、タイムラインで
リテラの最新記事が確認できます。

プッシュ通知を受け取る 通知を有効にする 通知を停止する