『家事労働ハラスメント 生きづらさの根にあるもの 』(岩波新書)
「家事ハラスメント」という言葉が今年になって盛んに使われている。10月4日にはNHK「週刊ニュース深読み」でも家事ハラが取り上げられ大きな反響を呼んだ。
安倍政権が成長連略の柱として女性の社会進出を謳う中、しかし家事は依然として女性の“役割”であり、しかもそれは賃金を伴わず、また社会的、家庭的にも軽視されたままだ。
女性の場合、外でハードに働いていようが、一旦家庭に戻れば「家事」や「育児」という労働が待っている。最近では家事を積極的に手伝う男性も増え、イクメンなどと育児をする男性が持て囃されるが、しかしそれはあくまで「時間のある時、気が向いた時のお手伝い」だと感じる女性は多いだろう。しかも親が高齢になれば、実父母だけでなく義父母の介護まで女性(嫁)の肩に伸し掛かってくる。しかも、こうした家庭内の労働はほぼ無償──。
こうした家事労働の不公平な分配こそが、女性の生きづらさ、さらには女性の貧困を生んでいると指摘した著書が『家事労働ハラスメント』(竹信三恵子/岩波新書)だ。
「労働には『有償労働(ペイドワーク)』と『無償労働(アンペイドワーク)』 のふたつがあるということ、どちらも重要な対等な労働なのに、女性だけが無償労働を担うことになっている結果、女性は経済力を失い社会的発言力をそがれてしまう」
そんな家事ハラの象徴的な出来事は3.11の被災地で起こっていた。郡山市で正社員として働く56歳の女性は、失業中の夫と子ども2人を抱えて生活をしていた。だが福島原発事故で、避難してきた重い認知症の義母とパーキンソン病のおばまで抱え、厳しい負担を強いられる。朝から夕方5時半まで会社に勤務し、帰宅後は夕食の支度、夜中は高齢者の世話に終われ、早朝また出社する。その後心身ともに疲れてうつ病を発症した。家事と介護が一人の女性を押しつぶしたまさに家事ハラの犠牲者だが、家族や行政の支援はない。
また避難所での食事、いわゆる炊き出しも、家事ハラが見事に露呈した労働だった。