いずれにしても、こうした客観的な顧客による評価までを訴訟の対象としてくるヤマダ電機の対応に、メディアはどんどん腰が引けているというのが実情なのだ。
「訴訟はある意味、広告引き上げよりきつい。今の裁判システムでは訴訟を起こされたら、9割が報道したメディア側の敗訴。しかも、損害賠償額の基準もあがっており、弁護士費用もバカにならない。そのためか、数年前から訴訟を起こされると会社から編集者や記者が責任を追及されるようになった。そうなると、編集者もサラリーマンですから、批判を書けば訴訟を起こしてくるような政治家や団体、会社については、どんどん記事を書かなくなっていく」(週刊誌記者)
しかし、訴訟や情報操作で批判記事をつぶすやり方は、長い目で見れば、ヤマダ電機にとってもけっしてプラスにはならないだろう。マスコミは沈黙しても、ヤマダ電機に対するユーザーの悪評はネットを通じて確実に広がっている。
ヤマダ電機は力ずくで批判報道をつぶす前にまず、やるべきことがあるのではないだろうか。それは、やはり労働条件の改善だ。ヤマダ電機がどういいつくろうと、その顧客満足度の低さの背景に、売り上げ至上主義と社員に対する過剰な圧迫があることは、否定しようのない事実だ。
たとえば、ヤマダの店内には万引き対策や、顧客満足度の向上という名目で、監視カメラが設置されているが、その映像は高崎の本社でチェックされていて、従業員の顧客対応など本社で気になることがあれば、すぐに電話がかかってくる仕組みだ。また、店員全員が情報共有のツールとして、インカムをつけているが、フロア責任者や店長が、インカムを通して「今日の自分の売上額、言ってみろ」「そのお客落とせなかったら、転職候補な」などと暴言を吹き込んでくることもあるという。そうした暴言が理由で急性ストレス障害と診断され退職した店員までいる。
さらに、店長となれば、売り上げ目標も過酷で、近所のライバル店の売り上げをすべて奪ったとしても達成できないような数字を設定される。成績が悪ければ、テレビ会議で中継される店長会議で徹底的に糾弾される。この吊るし上げに耐えきれず、出社ができなくなる店長や辞意を漏らす店長も続出しているのだという。
こんな状況で、顧客を満足させられるようなサービスなどできるはずがない。おそらくこの労働環境を改善しないかぎり、社員だけでなく顧客の不満もどんどん広がり、やがて同社の経営を圧迫することになるだろう。
ヤマダ電機の経営思想は「人こそがヤマダ電機の宝であり、礎である」というものだという (「PHP Business Review」2012.7.8「特集 全員経営の凄み 山田昇」)。ならば、店舗拡大のために社員を犠牲にするような労務管理を一刻も早く辞めて、ほんとうの顧客サービスを提供できる労働環境の整備と人材教育をすべきではないのか。
(小石川シンイチ)
【追及!ヤマダ電機ブラック問題シリーズはこちらから→(第1弾)(第2弾)】
最終更新:2015.01.19 05:03