これまで紹介されている作品は、その作品自体に何らかの問題があったとされるものが多いが、時代が進むにつれ、より現代的な理由でお蔵入りとなった作品が出てくる。その最たるものが、所謂“芸能人AV”だ。ひと昔前は芸能界とAV業界ははっきりとした線引きがされていたが、ソフト・オン・デマンドやMUTEKIのようなセルメーカーの台頭によって、元タレントがセンセーショナルにAV女優へと転身することが珍しくなくなった。本書には、仮名ではあるが、とあるグラビアアイドルの封印AVが紹介されている。Hカップの豊満なバストで人気を博した彼女は、グラビアから着エロへ過激路線に進み、ついに大手AVメーカーと複数本契約することになったが、失踪してしまう。契約書を交わした後の不履行は言わずもがな「業界の御法度」であり、彼女の実家に請求された賠償金の額は1億円。
とんでもない金額だが、結局裁判沙汰となり、ン十分の一の整形費用のみ弁済することになり、デビューは流れることになった。あくまでこれは稀な例だが、その後に続く「芸能人AVの“裏側”」でマネージャーへの取材を通して明らかになるタレントAV女優の「月給80万円」、「住居保証」という生々しい内情は、終わりの無き不況という現代社会が映し出されている。
その他にも本書では、150周年のお祭りムードで賑わう横浜中華街で敢行された衝撃の全裸露出作品や、自殺した女優の墓の前でSMに興じる狂気のビデオ、「別に…」でお馴染みのお騒がせ女優を取り上げた笑撃のパロディAVなどが紹介されている。このように見てみると、封印されたアダルトビデオはまさにAVの変遷史そのものではないだろうか。その30年余の歴史の中で決して表舞台に出ることのない禁断の作品に興味がある好事家は、ぜひ本書を手に取ってもらいたい。
(宮谷 烈)
最終更新:2018.10.18 03:48