『日本はなぜ原発を輸出するのか 』(平凡社新書)
いよいよ、原発の再稼働が現実となる見込みだ。今月22日、国際原子力機関(IAEA)の年次総会に出席した山口俊一科学技術担当大臣が、演説で、鹿児島県の九州電力川内原発について「政府として再稼働を進める」と表明した。だが、眼前に迫る再稼働問題にだけ目を奪われているわけにもいかない。実は3.11以降、日本の“原発プロジェクト”はとっくに再開していたのだ。その主題は政府がさかんに訴える「電力供給問題」ではない。真の目的は“原子力の輸出”にある。
安倍政権はアベノミクスの戦略のひとつに原発輸出を据え、自ら先陣を切ってトップセールスを行っている。たとえば、2013年に結ばれた原子力発電プロジェクトの契約の際、安倍首相はわざわざトルコ入りし、同国首相との間で原子力協力に関する共同宣言に署名した。地球史上最悪の原発事故を起こし、いまだに収束することなく放射能や汚染水を垂れ流している日本の原発を、ここまで前のめりになって他国に売り込んでいるのはなぜなのか。
『日本はなぜ原発を輸出するのか』(鈴木真奈美/平凡社)には、その恐るべき背景が描かれている。
そもそも原子力プラント輸出は1980年代から国の方針として掲げられてきた。特に小泉政権が2005年に「原子力政策大綱」を閣議決定して以降、それは加速していったという。その前提が2030年以降も原子力の割合を30〜40%以上を維持することにあった。これを実現するには、国内での新規原発建設が低迷する2010年からの約20年間で、技術と人材が流失するのを防ぐ必要がある。ゆえに需要の少ない国内ではなく、輸出事業の展開が必要不可欠だったのだ。そして、きたる2030年から始まるであろう国内原発の立て替えに備える──。
しかしその矢先に起こったのが福島原発事故だった。そのため一時は輸出政策の根本からの見直しを迫られたが、安倍政権が発足するとその方針はあっさり放棄された。事故以前よりも積極的とさえ思える輸出政策が展開されているのは、冒頭に示したとおりだ。もちろんその背景には国・電力会社・メーカーの利権と相互依存関係がある。
「原子力プラントの受注契約を先行させ、その上で自国の今後の原子力政策と中長期計画を検討するというのは、『原子力発電を維持するために原子力産業を維持』するのではなく、『原子力産業を維持するために原子力発電を維持する』という逆転をもたらすことにある」
ようするに現在の原発輸出は、原発事故後も、日本の原発産業を維持・発展させるためのものであり、「日本が核エネルギー利用から脱却しないように、その外堀を埋めようとしている」のだという。