国・電力会社・メーカーが原発を推進するのは、決して電力維持といったエネルギー問題が本質ではない。現在、全ての日本の原発が止まっているにも関わらず、必要な電力を供給できていることからもそれは明らかだ。原発推進は原発産業の生き残り、そして発展こそが重要であり、そのためのひとつの方法が原発輸出なのである。
「日本政府が原子力輸出へと大きく舵を切ったのは、内需だけでは自国の原子力産業を維持するのが難しくなったことによる」
それは皮肉なことに原発事故で加速度を増した。
「福島原発事故後は、発電比率や将来の原子力ビジョンは不明確なまま、原子力産業維持そのものが目的となっていった」
ある意味、原発事故があったからこそ、輸出の重要性がさらに増すというパラドックス。では、日本政府がそこまでして原子力産業を維持する目的はなにか。本書はその本質にこう切り込む。
「世界から非難されないように気をつけながら潜在的核兵器製造能力を保持する」
日本は戦後原子力に関わる一切の活動が禁止された。しかし1952年のサンフランシスコ講和条約でこれが解禁されるや、中曽根康弘を始めとする政治家主導で、原子炉導入が進められていく。いわゆる「核の平和利用」だ。そして1964年の中国核実験の政権を受け、佐藤栄作政権下では米国政府と交渉を重ね、1968年には米国の「傘の下」に入り、日本の国是として「非核」を選んだ。今から約40年以上前、核拡散防止条約(NPT)をめぐる協議で外務省はこんな内部文章をまとめていたという。
「NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器の製造の経済的。技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する。又、核兵器の一般についての政策は国際政治・経済的な利害損失の計算に基づくものであるとの趣旨を国民に啓発する」
原子力は「平和利用」で、核は「軍事」とのイメージが強いが、実は、両者の原理・工程・技術には大きな違いはない。
現在の安倍政権の言う「原発再稼働、輸出推進」は決してエネルギー問題だけでも、原発産業利権だけでもない。いつでも核を製造する能力を保持するため、原子力発電所を、そして原発産業を維持発展させていく──その方針の背後には「核兵器製造技術の維持」という恐るべき野望さえ見え隠れしているのだ。
最後に本書からこんな一文を紹介したい。
「日本のような『非核兵器国』が核兵器製造に直結する核燃料サイクル技術を、世界から掣肘を受けないように保持するには、国内の一定規模以上の原子力発電を商業規模で維持する必要がある。なぜなら、少数の原発のために核燃料サイクル施設を保有するのは明らかに不合理とみなされるからだ」
日本の核武装はもはや空想ではない。現実として“そのシナリオ”の上をこの国は走っているのだ。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.01.19 05:28