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セックスで電気が発生? 明治時代、エロ本がわりに読まれた性教育書の中身

 一方、やり過ぎると死ぬとまで言われたオナニーはどうかというと、これは一人でするものだから、摩擦による電気しか発生せず、「神経の疲労が甚だし」い。それもあって、オナニーをし過ぎると、衰弱し、耳鳴りがし、近眼になり、痙攣が起き、癇癪を起こし、神経病や肺結核にかかってしまう。本当だとすれば、一大事である(言うまでもなく、この手のオナニー有害説は、後に科学的に否定されている)。

 一大ブームを巻き起こし、当時の性観念に決定的な影響を与えた『造化機論』も、しかし、時代の波には勝てなかった。性欲というものを個人の問題にとどめておかず、社会全体で「管理/統制」すべきであるとする優生学的な発想が強まっていき、さしもの『造化機論』も駆逐されていったのである。

 新たに台頭してきた優生学では、どんな配偶者を選べば知力・体力とも優れた子孫を残せるかという「人種改良問題」が論じられ、国力を増強させ、「民族間の競争」に打ち勝つには日本人を「改善」しなければならないといったことが大真面目に論じられた。ちょうどそれは、富国強兵策が推し進められ、日清・日露という二つの戦争へ突入していった時代である。

 こうして、個人的なものであるはずの性が、そしてオナニーが、社会の問題とされていき、国家によって統制され、からめ取られていった。もちろんこれは戦前の話だ。だが、すべては終わったことなのだろうか。

 安倍晋三首相は昨年、国会での施政方針演説で、「強い国家」を目指すことを宣言し、「人種改良」論者でもあった福澤諭吉の言葉を引いた。そして「産めよ増やせよ」という政策を推し進めつつ、今回の内閣改造では女性に結婚まで貞淑を求める性教育や、母乳での育児強要、中絶禁止を推進する女性閣僚を次々入閣させた。

 性がふたたび国家にからめ取られてしまう日も、そう遠くないのかもしれない。
(近勢頼彦)

最終更新:2018.10.18 05:18

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