もっとも、小説に出てくる国交相は白井亜希子という女性議員で、「華やかなテレビ業界でキャリアを積んで政界へ進出、転がり込んできた政権交代劇の流れに乗ってとんとん拍子に大臣の椅子を手に入れてサクセス・ストーリーの主人公」という経歴は、むしろ同じ民主党の蓮舫に近い。あるいは、甲高い声で常にけんか腰で要求をつきつけてくる、などの描写を読むと、前原国交相の下で副大臣をつとめていた辻元清美のキャラクターをミックスさせているような印象も受ける。だが、大臣就任会見の描写などをみると、やはりメインのモデルは前原といっていいだろう。
いずれにしても、この『銀翼のイカロス』の白井国交相=前原と進政党=民主党への批判は痛烈で、半沢にこんな心情や台詞を語らせている。
「白井の目的は、帝国航空の再建というより、前政権の完全否定なのではないか。それによって進政党の優位性、憲民党との違いを国民にアピールする。ただそれだけのために、有識者会議と修正再建プランを葬り去ろうとしたのではないか。だとすれば、帝国航空を政治の道具に使うに等しい行為だ」
「この大臣の目には、再建プランの修正を受け入れた帝国航空の苦渋も、なんとか同社を再生させようと必至で努力してきた銀行担当者たちの熱意も、なにも映ってはいない。あるのはただ、前政権への敵愾心と、自らの功名心だけだ」
「帝国航空のためといいつつ、連中の最終目的は、自らを利することだけだからな。唾棄すべき政治屋どもだ」
半沢の親友・渡真利や部下たちの台詞も辛辣だ。
「政権交代といえば、聞こえはいいが、素人たちがやりたい放題やってるだけにしか見えねえぞ」
「なに勘違いしたこと言ってんだよ。気でも狂ったのか」
しかも、『銀翼のイカロス』では、白井大臣の後ろ盾として、進政党の創設者である箕部啓治なる超大物政治家が登場するのだが、その箕部は重大な金銭スキャンダルを抱えているという設定になっている。こちらは明らかに小沢一郎がモデルだろう。実際の小沢は前原の後ろ盾ではなかったが、小説で箕部はこう描写されている。
「そもそも、箕部は人というものを信用しない。箕部にとって、人とは裏切るものであり、そして自分もまた人を裏切ってきた。かつて仲間だった憲民党と袂を分かち、派閥の議員たちとともに進政党を旗揚げしたのも、そうした裏切りのひとつだ」