『洗脳 地獄の12年からの生還』(講談社)
元X JAPANのToshIが壮絶な洗脳体験を告白した著書『洗脳 地獄の12年からの生還』(講談社)が話題を呼んでいる。
ロックシーンの頂点に上り詰めたX JAPANが、突然のToshIの脱退によって崩壊してしまったことは周知の通りだが、その根源にあったのは、強烈な“洗脳”によるToshIの変貌だった。
著書にはYOSHIKIをはじめとするメンバーとの確執や、解散までの経緯なども書かれているのだが、最大の注目は、やはりすべての元凶となった“洗脳”の手口だろう。自己啓発セミナー「ホームオブハート」のMASAYAに心酔していく過程の告白は、当事者ならではのリアリティに満ちている。
そもそもの始まりは、舞台で共演した新人女優・守谷香との出会いだった。当時のToshIは、個人事務所の社長を務めていた長兄との喧嘩別れや、バンドの事務所社長に多額の金銭トラブルが発覚するなど問題続き。「多額のお金が手に入れば、周囲の人間、家族や友人でさえも変貌し、信じられない事態が起こる」「メンバーとの間にも、深い溝のようなものが自分の中にできていた」という状況で、そんなToshIの孤独感を癒す「心の拠り所」となったのが彼女だった。
ほどなく交際を始めたToshIは、次第に影響を強く受け始めていく。精神世界やヒーリングミュージックを好んで聴くようになり、望まれるまま守谷と入籍し、X JAPANも脱退してしまう。特にバンドの脱退は「守屋との人生のスタートと引き換えに、それまでのX JAPAN=YOSHIKIとの人生を終りにするという選択をしたのだ。それは守谷のたっての望みであった」という。ToshIはこの頃の自分の精神状態をこう書いている。
「『僕のことを本気で考えてくれているんだ……信じられるのは彼女だけだ』と思うようになっていった。そして僕は次第に周囲の人間と距離を置くようになり、まるで守谷という洞穴にこもるかのような精神状態になっていった」
この頃であれば、まだギリギリ後戻りができたのかもしれないが、バンドから離れ、周囲のスタッフからも孤立したToshIをとめることができる人間は、もういなかった。
ここから本格的な洗脳がスタートする。入籍直後、旅行に誘われた屋久島のホテルでは、わけもわからぬうちに涙を流すような体験をさせられているが、これは明らかに洗脳への地ならしとなる手引き。そのうえで、すでに守谷が心酔していた教祖・MASAYAと引き合わされることになる。
これはなにかおかしな宗教の集まりかもしれない──最初にMASAYAのステージを見たときはそう思ったはずが、守谷をはじめ、他の観客が全員、涙を流しながら感動に浸る様子を見るうちに、こう思い始めたという。
“感受性もない、涙も出ない、僕こそひどい人間なのかも”