実際、甘利氏は安倍前首相と「同盟」関係にあるだけでなく、甘利氏には安倍前首相に大きな借りがある。くだんの口利き問題は、安倍前首相の力によって捜査を握り潰してもらったからだ。
甘利氏の口利き、賄賂疑惑はあっせん利得処罰法違反どころか刑法のあっせん収賄罪の対象にもなりうる案件であり、実際、東京地検特捜部も2016年4月にURを家宅捜索、甘利氏の元秘書らを事情聴取するなど明らかに立件を視野に動いていた。当初の計画では、参院選前にまずURの職員だけを摘発し、参院選後に甘利の公設秘書ら2人を立件。その後、甘利本人にいくかどうかを判断する予定だったという。ところが、それが参院選前に一転し、全員「不起訴」の判断が下ってしまった。
この裏には何があったのか。それは当時、法務省官房長で、2020年に賭け麻雀問題で東京高検検事長を辞任した黒川弘務氏が捜査を握り潰すべく動いたと言われているのだ。
当時、国会議員秘書初のあっせん利得法違反を立件すると意気込んで捜査をおこなっていた特捜部に対し、法務省官房長だった黒川氏は「権限に基づく影響力の行使がない」という理屈で突っ返し、現場が今度はあっせん収賄罪に切り替えて捜査しようとしたが、これも「あっせん利得法違反で告発されているんだから、勝手に容疑を変えるのは恣意的と映る」などと拒否。さらには秘書の立件すら潰してしまったのだという。実際、甘利氏の不起訴の方針が決まった後、現場の検事の間では「黒川にやられた」という台詞が飛び交ったという話もある。
この甘利事件を潰した論功行賞として、黒川氏は2016年9月に法務省事務方トップの事務次官に就任。その後も安倍前首相は黒川氏を検事総長にするために検察庁法で定められた定年を勝手に延長、後付けの法改正で正当化しようとまでしたが、ようするに、甘利氏の事件そのものは限りなく“黒”であったにもかかわらず、安倍官邸が捜査を潰させただけにすぎないのだ。
安倍前首相に大きな借りがある甘利氏が幹事長となり、安倍・甘利氏に絶対に逆らえない岸田氏が総裁・首相──。今回の甘利氏の人事ではっきりしたのは、どんな大スキャンダルを引き起こした人物でも、安倍前首相に忠誠を誓えば要職に引き立てられるという「安倍政治」の完全復活ということだ。
「安倍政治の復活」という意味では、高市早苗氏の処遇も同じだ。岸田氏は前述したように高市氏を政調会長に据える意向だというが、これは安倍前首相の悲願である憲法改正の主導役に高市氏を選んだということ。しかも高市氏は自衛隊の「国防軍」明記や私権制限にまで踏み込んでおり、現行の自民党案からより極右色を強める可能性もある。
「新しい自民党」どころか、実態は「安倍体制の強化」「安倍支配の本格化」。岸田政権の誕生によって、安倍政治の第二幕がはじまったのである。
(野尻民夫)
最終更新:2022.01.02 11:01