言っておくが、ほとんどの情報番組は世論とは違って強固な反対論など唱えられておらず、河瀨氏が出演したこの『スッキリ』もMCの加藤のスタンスは「無観客での開催」だった。それをあたかも報道が偏向していると言わんばかりに批判し、言うに事欠いて「招致したのは日本」「日本の評価を決定づけられることは間違いない」って、まるでネトウヨ議員の主張のようではないか。
しかも、MCの加藤が観客を入れての開催による感染拡大に懸念を示すと、河瀨氏は「無観客でもいいと思いますけど、観客が入って、そのー、えっと、熱い思いを共有するっていうのも、あると思います」と、またも薄っぺらい感情論を訴え、さらにこんなことを言い出したのである。
「で、いま加藤さんが言われているのは、人流が起こってしまうというのは、いまもそうですよね。オリンピックしても、してなくても、人流は起こっている。昨日、私は奈良から東京に来ました。銀座すごい人出てます。これはなんで抑えられていないんですか?」
「なんで人流を抑えられないんですか?」って、この緊急事態宣言下、移動の自粛が求められているなかで自分は奈良から東京にやってきておいて、何を言っているんだろう。それとも東京五輪の公式記録映画監督である自分は特例だとでも言いたいのか。はっきり言って、何様のつもりだ。
だが、河瀨氏は、MCの加藤が「緊急事態宣言中なんだけど出る人がいるからですよね」と答えると、自分のことは棚に上げて「そうなんです。つまりそれはオリンピックのせいではないです。人流が起こっているのは国民の意識の問題です。ですから、そこは切り離さないといけない」などと強弁。「観客であるみなさんは、自分たちによって『オリンピックがダメ』と言われないようにしようってなってくれたら」と述べたのだった。
このように、徹頭徹尾、どう考えても有観客での開催を強行に主張しておきながら、コーナーの最後のほうになって「私、賛成も反対も言ってないです。いま起こっている現実がこうなんだっていうことを言っているのであって」と言い出したり、なのに“どのようなかたちで開催すべきか”を問われると「私は観客を……えっと、私自身、私、河瀨直美個人で言えば、お客さん入って、で、えっと私もアスリートだったんで、やっぱ応援してほしいです」などと発言する始末だった。
ようするに、どこからどう見ても河瀨氏は政府や組織委と完全に一体化、いや、もはやそれ以上の、狂信的といえるほどに五輪の強行を主張しつづけたのだ。
いくら公式記録映画の監督を任されたとはいえ、専門家たちが指摘するコロナ感染拡大に対する懸念や変異株の脅威、そして国民だけではなくアスリートからも上がる不安の声をまるっきり無視したこの露骨な姿勢は、あまりにも酷いとしか言いようがない。