実際、第一生命経済研究所の首席エコノミストである永濱利廣氏は〈2019年までに13.8兆円程度の経済効果が出ており、株価もすでにそれを織り込み済みである可能性が高い〉と指摘し、「開催直前の方がGDPの押し上げ額が高く、2019年までに8割近くの経済効果は出ていると言える」と述べている(「Forbes JAPAN」3月13日付)。
ようするに、武藤事務総長の発言はたいしたことのない効果の残りカスにしがみついて、開催強行のための口実にしているに過ぎないのである。
しかも、もっと問題なのは、野村総研のレポートが、強行して感染拡大した場合の経済損失のほうがはるかに大きいと指摘していることだ。
同レポートでは過去の緊急事態宣言の経済損失についても推計し、1回目は約6兆4000億円、2回目は約6兆3000億円、現在の3回目は約1兆9000円で、延長によって約3兆円などさらに増加すると計算。こう言及している。
〈大会を中止する場合の経済損失は、緊急事態宣言1回分によるものよりも小さい〉
〈緊急事態宣言による経済損失などと比べると、国内観客を制限して大会を開催、あるいは大会を中止する場合の経済損失は必ずしも大きくはない。大会開催をきっかけに、仮に感染が拡大して緊急事態宣言の再発令を余儀なくされる場合には、その経済損失の方が大きくなるのである〉
つまり、東京五輪開催によって感染が再拡大して緊急事態宣言が発令されれば、1.8兆円の3倍以上になる6兆円もの経済損失が出る可能性があるのだ。それでどうして「五輪を開催するほうがはるかに経済効果がある」などと言えるだろう。
だが、この国は「GoTo」をはじめとして目先の「経済効果」を持ち出して、むしろ経済を悪化させてきたという“前科”がある。この間、安倍晋三・前首相と菅首相が感染防止対策よりも経済を優先させ、何から何まで後手後手に回ってきたが、その結果、ありえない程の経済損失を叩き出してきたからだ。