東京2020オリンピック競技大会公式ウェブサイトより
28日におこなわれた記者会見で、緊急事態宣言下での東京五輪開催について否定しなかった菅義偉首相。そればかりか、「緊急事態宣言下で野球やサッカーをおこなっていることも事実」などと述べ、観客を入れての開催にまで意欲を見せた。
まさに狂っているとしか言いようがない。東京に3 回目の緊急事態宣言が発出されて1カ月を過ぎたが、新規感染者数はいまだに高止まりの状態。しかも、オリンピックは野球やサッカーとまったく規模が違って、世界中からものすごい数の選手や関係者が集まってくるのだ。
インド型変異株が拡大傾向に入っていることも踏まえれば、東京五輪の開催が火に油を注ぐことになるのは明々白々だ。にもかかわらず、まさかの観客を入れての開催に突き進もうとは……。
しかも、菅政権と軌を一にして開催を強行したい東京五輪組織委員会の最高幹部である武藤敏郎事務総長からは、こんな発言まで飛び出した。
「日本経済全体のことを考えたら、五輪を開催することのほうがはるかに経済効果があると思う」
この国に暮らす人びとの命と健康を守ることよりも「経済効果」を持ち出すこと自体、下劣にもほどがあるが、それ以前に、武藤事務総長は事実を捻じ曲げている。
武藤事務総長の発言の2日前である25日に野村総合研究所が「東京大会を中止した場合の経済的な損失は1兆8000億円規模」という試算を公表した。武藤事務総長の発言はこの数字を意識してのものだろうが、じつは、試算をまとめた当の野村総研はまったく逆の分析をしている。
試算を発表した同レポートには、約1兆8000億円という経済損失の額が〈2020年度名目GDPと比べると0.33%の規模であり、景気の方向性を左右する程の規模ではない〉と書かれているのだ。
たしかにそのとおりだ。経済損失1兆8000億円規模とだけ言われると、大きな金額のようにも感じるが、この数字はむしろ、予想以上に影響は小さいというべきものだ。
そもそも、オリンピック誘致の際には、その経済効果は10兆円から数十兆円と言われていた。それが10 分の1以下になっている。
これは、「オリンピック特需」とも呼ばれる五輪の経済効果の中心がインフラ整備とインバウンドによってもたらされるものであり、とっくにその効果が終わっているからだ。