もちろん、今回のNHKの中継映像に対してはネット上でも「言論統制」「大本営の再来」といった批判があがり、毎日新聞が5日にはウェブ版、6日に紙面で詳報。NHKは毎日新聞の取材に対し、「走っている聖火ランナーの方々への配慮も含めて、さまざまな状況に応じて判断して対応した」「沿道からさまざまな声が上がっていたことは事実です。そうした状況を踏まえてということです」などと回答しているが、これが公共放送局のやることか。
毎日新聞は、NHKが過去に日本でおこなわれた北京五輪の聖火リレーでチベット独立を叫ぶ抗議デモの様子を放送し、国外メディアのニュースを遮断した中国当局の対応を批判していたことを紹介して〈北京五輪の聖火リレーで抗議デモを報じ、東京五輪で音を絞るのは、ダブルスタンダード(二重基準)ではないのか〉と批判しているが、まったくそのとおりだろう。
しかも、NHKの度を越した東京五輪への忖度ぶりはこれだけではない。NHKは聖火リレーや東京五輪の「お涙頂戴」的な話題は頻繁に取り上げる一方で、組織委が「週刊文春」に雑誌の販売中止・回収などを要求するという国民の知る権利、報道の自由を侵害する抗議をおこなった件について、一切報じていないのだ。
たしかに、東京五輪の問題については、テレビも新聞も大手メディアは軒並み「応援団」と化している。本サイトでも繰り返し指摘してきたように、新聞は朝日・毎日・読売・日経・産経の大手5紙がすべて東京大会の「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」となっており、テレビもNHKと民放がコンソーシアムとして国内放送権を獲得。とくに民放は五輪の最大手スポンサーが自分たちの大口スポンサーでもあり批判しにくい構造になっている。
自分たちの利益が絡んでいるために、東京五輪の不祥事や問題点を大きく取り上げない──これは報道機関にあるまじき事態で、とりわけスポンサー契約をおこなった新聞社は言論機関としての自殺行為としか言いようがない。だが、それでも、たとえば毎日新聞は東京五輪の会場運営を委託した企業への人件費が1日あたり最高で30万円にものぼることをスクープ。この報道に対しても組織委は謝罪・訂正を求める厳重抗議をおこなっているが、毎日新聞はそれ以降も、今回のNHKの音声消去による「異論排除」問題や、「東京五輪の開催費用1.6兆円があれば貧困や復興、コロナ対策で何ができるか」という、開催見直しを促すような記事を掲載。ギリギリとはいえ言論機関としての役割を果たそうとしている。
しかも、組織委が「週刊文春」におこなった言論封殺の問題については、東京五輪の応援部隊となっている民放でさえ取り上げていた。それを広告スポンサーの顔色を伺わないでいいNHKが取り上げず、さらには中国当局のような情報操作をおこなうというのは、やはり異常としか言いようがない。
このコロナ禍で市民の健康と安全を徹底的に軽んじて開催を強行しようとする組織委・政府に、開催に抗議する市民の訴えを隠蔽する公共放送局──。まさに戦時下の大本営報道を、NHKは再現しているのである。
(編集部)
最終更新:2021.04.07 10:06