さらに興味深いのは、前川喜平・元文科事務次官のツイートだ。
前川氏といえば、文科事務次官時代の2016年、文化功労者や文化勲章受章者を選ぶ審議会の人選において、大臣の了解が出ている委員の候補案を杉田官房副長官に持っていったところ、「好ましからざる人物」「この候補は任命するな」と言われ、候補者2人の差し替えを要求されたことを証言(TBS『news23』9日放送)。本サイトで掲載した作家・室井佑月との対談でも、「安保法制に反対する学者の会議に入っているから外せ」と指示されたと語っている(既報参照→https://lite-ra.com/2017/09/post-3473.html)。つまり、前川氏は今回の任命拒否と通じる官邸による人事介入にかかわった人物でもあるわけだが、その前川氏は今回の任命拒否の舞台裏を〈おそらくこんな経緯〉とし、こう推測しているのだ。
〈学術会議から推薦者名簿が内閣府に届いた→内閣府が杉田官房副長官に名簿を説明→杉田副長官が全員の身辺調査を内調に指示→身辺調査の結果を携えて杉田副長官が菅首相・加藤官房長官と相談→菅首相が6人の排除を決定→6人を除いて起案するよう杉田副長官から内閣府に指示〉
前川氏自身も、加計学園問題で菅─杉田ラインによって「身辺調査」をされ、警告を受け、違法性もないのに読売新聞に「出会い系バー通い」という謀略記事を書かれたという経験がある。推薦された学者にもそうした身辺調査がおこなわれたかどうかはわからないが、安倍政権からつづいてきたスキームを考えれば、杉田官房副長官が排除すべき学者を菅首相に進言し、最終的に菅首相が決定していた可能性が高いだろう。
また、もうひとつ考えられるのは、安倍前首相の関与だ。というのも、日本学術会議側が105人の推薦をおこなったのは8月31日、内閣府が任命の法解釈について内閣法制局に確認をおこなったのは9月2日だ。このときすでに辞意を表明していたとはいえ、気に食わない学者を排除する方針は安倍首相のもとで立てられ、菅首相も官房長官として杉田官房副長官に指示を出すなど実行部隊として動いていたのではないか。
ともかく、あらゆる意味で「見てません」などという菅首相の詭弁は通用しないのだが、問題は菅首相に近い橋下徹氏をはじめとする御用コメンテーターたちが必死に「税金の無駄遣い」などという論点ずらしに必死になっていることだ。そして、このまま問題の焦点が移ってしまえば、言論・学問の自由のみならず、「あいちトリエンナーレ2019」での補助金交付問題のように、表現の自由も平気で踏みにじろうとしてくるだろう。だからこそ、論点ずらしや菅首相の詭弁を見過ごさない徹底追及が必要だ。
(編集部)
最終更新:2020.10.10 10:11