今回の発言の端々に抗議の声を上げた者に対する悪感情がダダ漏れしていることからもわかるように、指原は「芸能人の政治的発言」にためらいがあるのではなく、そもそも「芸能人の政権批判」に批判的なのだ。
実際、指原はもっと明確に「SNSで政治を語りたがるタレント」を批判・嘲笑したことがある。2019年2月27日深夜放送の『ナカイの窓』(日本テレビ)で、「ネット社会のここを直して!」というテーマでトークをしたときのこと。このテーマに即座に反応した指原はこんなことを言った。
「ただご飯行ってきましたよとか、そういうことだけなら良いんですけど、最近なぜか政治を語りたがるタレントとか……」
さらに、たとえば誰のことを指しているのかと共演陣から問われ、指原は嘲笑気味にこう答えたのである。
「ウーマンラッシュアワー村本」
小籔千豊、千原せいじ、たむらけんじ、つるの剛士、ほんこん……政治を語るタレントは他にいくらでもいるが、ここでウーマンラッシュアワーの村本大輔の名前をあげたところに、指原の、そして「芸能人は政治発言するな」論の真意がよくあらわれている。周知のとおり、前者が安倍応援団的発言を繰り返しているのに対し、村本は現状に対して批判的な眼差しをもち、反権力の姿勢で発言している芸人だ。ようするに、指原が言ったのは、「政治発言がダメ」ではなく、「政権批判や現状に対する異議申立てがダメ」ということだったのだ。
ちなみにこの詐術は、松本人志も同じだ。今回の『ワイドナショー 』で、松本は芸能人の政治的行動に「1回やっちゃうと、『次やらへんのか?』とか『このことに関してどう思うねん?』が、これがちょっとなかなか大変なんじゃないのかなというのが、俺がやらない、やりたくない理由かな」「たいして知らないくせに、僕がなんかそこに一票を投じることで、僕に関心があるファンというかそんな人たちを引っ張り込むの申し訳ない」「全体にイエスとかノーで言える問題ではない」などととぼけていた。
いったい何をとぼけているのか、という話だろう。松本は『ワイドナショー』で政治的発言をしたことがないどころか、あからさまに安倍政権の政策を支持し、不祥事は擁護し続けてきた。安保法制に反対の声が高まっていたときは「いま、安倍さんがやろうとしていることに対して、反対だー!って言うのって、意見って、これ、意見じゃないじゃないですか。単純に人の言ったことに反対してるだけであって、対案が全然見えてこないんで」と反対派を批判、共謀罪強行採決には「冤罪も多少、そりゃそういうこともあるのかもしれないですけども、なんか未然に防ぐことのほうがプラスのほうが僕は多いような気もする」と支持。甘利明・元経済再生相が口利き問題で大臣を辞任したときは「TPPどうなんねん」「このタイミングで(大臣辞任を)やることによって、国益とか、何兆円規模の日本にとっての損害の可能性があるわけですよ」とかばい、加計問題は「わき見運転したみたいなもん」と擁護した。
それどころか、熊本地震の発生のため結果的に放送日がずれたが、衆院補選の選挙期間中に安倍首相を出演させ持ち上げまくりの接待番組を展開するという公選法違反が疑われる行為に加担したことすらある。
これだけ散々政治的発言をしてきておきながら、「たいして知らないくせに、僕がなんかそこに一票を投じることで、僕に関心があるファンというかそんな人たちを引っ張り込むの申し訳ないなっていう思いが俺はちょっとしてしまう」などとよく言えたものだ。