補償を口にしない小池知事(東京都公式HPより)
東京五輪の延期が決まった途端、安倍首相よろしく「やってる感」アピールのための記者会見を開くようになった小池百合子・東京都知事。会見を開くというのなら毎日定時に定例会見をセットすればいいだけなのに、3月30日も「緊急」の記者会見を開催し、何を言い出すかと思えば、こんな話だった。
「夜間から早朝にかけて営業しているバー、ナイトクラブ、酒場など、接客を伴う飲食業の場で感染したことが疑われる事例が多発している」
「若者はカラオケ、ライブハウス、中高年はバー、ナイトクラブなど、接待を伴う飲食店などに行くことを当面、控えて自粛をしていただきたい」
バーやキャバクラ、酒場、カラオケ、ライブハウスに行くな──。都知事自ら「緊急」でわざわざ感染リスクが高い場所だとして業種を名指しし、自粛を呼びかけたわけだが、一方、名指しされた業種を生業とする人びとへの補償については、「さらなる支援を国に強力に要望することと同時に都独自の対策も今後考えていきたい」と言うだけだった。
まったく、ふざけるのもいい加減にしろという話だろう。そもそも、バーやキャバクラ、酒場、カラオケ、ライブハウスに行くことが感染リスクが高いというのなら、客に「行くな」と言う前にまずは休業を促すべきだ。
バーにしても、キャバクラにしても、酒場にしても、そこはただたんに飲み食いしたり接待したりする場であるだけではなく、馴染みの店主や常連客、贔屓のスタッフとのコミュニケーションを楽しむというコミュニティが存在する。そのコミュニティが、家族や友人と会うことと同じように、生活を営む上で重要な一部となっている人もいる。いま、新型コロナでそうした業種がピンチであることを踏まえれば、店が開いていれば顔を出そうと思う人がいてもおかしくない。
つまり、ほんとうに感染拡大を阻止しようと小池都知事や安倍首相が考えているのであれば、客側に「あそこには行くな」「不要不急の外出は控えろ」と言うだけでは意味はない。店側に休業を促した上で、合わせて休業のための補償をしっかりおこなうべきなのだ。
だが、小池都知事も安倍首相もそれをしない。ようするに、店側に休業を促せば当然、補償の話になるから、それを避けるために客側に「行くな」と自粛を呼びかけるだけなのだ。これでは感染拡大防止策になっていないだけでなく、経済的にも人を見殺しにしようとするものではないか。
だいたい、バーやキャバクラ、酒場、カラオケ、ライブハウスを名指ししたこと自体が恣意的だ。厚労省のクラスター対策班は都内の感染経路が不明な感染者のうち約3割(38人)がこうした業種に関連していたというが、残り7割が感染経路が不明になっていることのほうが重大で、クラスターを潰していくという現在の対策自体が限界にきていることの証拠だ。なのに、わざわざ緊急会見を開いてまで“夜のクラスター”の恐怖を煽ったのは、「やってる感」を演出するために特定業種をスケープゴートにしたのではないか。
ネット上では、イベント自粛を呼びかけながら補償策をいまだ打ち出さない安倍首相に対して「自粛と補償はセットだ」という声が高まっていたが、今回の小池都知事の特定業種を名指しして殺しにかかる対応にも同様の意見が噴出。これはあまりにも当然の反応だと言わざるを得ない。他国の対応と比較すれば、いかに安倍首相と小池都知事の対応があまりに無責任で、感染症対策になっていないことがよくわかるからだ。