しかも、今回指摘されている問題は決して落語全体の差別性などではない。志らくがアレンジしたと思われる「日本人かてめえコノヤロウ」というセリフは、この落語家の無自覚な差別意識が投影されたものなのではないか。事実、すでにTwitterで指摘されているように、志らくは「時そば」の演目でも、そばの中にキムチを入れた店主が咎められ、「パかなこと言うな」と外国訛りをバカにするような言い間違いで返して笑いをとるという演出を使っている。
江戸時代にはなかったであろう「日本人」や「キムチ」という言葉を差別的な文脈で、時代考証や伝統を無視してわざわざ取り入れておきながら、差別性を指摘されると伝統を持ち出す。御都合主義にもほどがあるだろう。志らくは落語全体の話に論点をすり替えているが、この問題は、落語や江戸っ子が内包する差別性などでなく、志らく個人の差別性にほかならない。実際、志らくはこれまでにも差別意識を感じさせる発言をしている。
たとえば、2016年7月の東京都知事選の際には、「朝鮮人を皆殺しにしろ」と扇動する差別団体・在特会の元会長で日本第一党の桜井誠の主張を紹介し、評価するツイートまでしていた。
〈小池百合子は名誉ある撤退はしないのでは。だってテロだと言われているのだから。総理の椅子の確約でもしない限りには。桜井パパではないもう一人の桜井候補。橋下さんと喧嘩した人。YouTubeで見られる。パチンコの利益700億が北朝鮮に流れテロ、拉致に使われているからという立候補記者会見〉(2016年7月2日)
〈もし桜井誠氏が言うようにパチンコの利益が700億が北朝鮮に流れ、本当にテロ拉致テポドンに使われているのならば大問題。パチンコを国営化するしかない。だがだからといって在日の人々を一色たんにして攻撃してはいけない。韓国朝鮮は日本を一色たんに攻撃していてもだ。〉(同上)
〈泡沫候補にしては勿体無いぐらい、好き嫌いは別にして、しっかりした政策を持っているとは思います。ただ在日朝鮮人が全て敵のように聞こえてしまうところが怖い。勿論そうはいってはいないのだろうが。かなりの票を集めると思います。〉(2016年7月27日)
一応、志らくは「だがだからといって在日の人々を一色たんにして攻撃してはいけない。韓国朝鮮は日本を一色たんに攻撃していてもだ」などと予防線を張っていたが、ツイートのなかで「橋下さんと喧嘩した人」と言っているように、このツイートの2年前の2014年には当時大阪市長だった橋下徹とヘイトスピーチ問題をめぐって公開直接会談するなど、桜井誠がレイシストであることはすでに一般的に広く知られていた。そんな正真正銘のレイシストを「泡沫候補にしてはもったいない」、「しっかりした政策を持っている」などと評価するところが、この落語家の本質なのだろう。
こんな人が帯番組のMCをやっているという事実にあらためて愕然とするが、さらに問題なのは、今回、「日本人かてめえコノヤロウ」というセリフが批判されたことに対する言い訳をみてもわかるように、自分の考え方が間違っていることを決して認めないということだ。ひたすら雑な発言を繰り返して批判されても「自分は正しい」と思い込み続ける立川志らく。露骨な極右や安倍応援団ではないという声もあるが、その思考パターンはネトウヨの確証バイアスに通じる部分さえある。今後も注視しなければならないだろう。
(編集部)
最終更新:2020.01.25 02:01