安倍首相を守るためには手段を選ばない、そんな人物がいままで以上の権力を握る。これだけでも恐ろしいのだが、しかし、問題はこれだけでは終わらない。
というのも今回、今井首相秘書官の補佐官兼任という昇格人事だけではなく、自民党でも極右中の極右である木原稔衆院議員を、新たに首相補佐官に任命したからだ。
木原議員といえば、2015年、百田尚樹氏の「沖縄の二つの新聞は潰さなあかん」をはじめ、言論弾圧発言が飛び出し問題となった自民党の「文化芸術懇談会」の代表を務めた人物。2017年には“「子供たちを戦場に送るな」と主張することは偏向教育、特定のイデオロギーだ”と糾弾、自民党HP上にそうした学校や教員の情報を投稿できる“密告フォーム”を設置したが、これを実施した自民党文部科学部会の会長も木原議員だった。ちなみに、この“密告フォーム”問題を木原議員に取材した毎日新聞の記事には〈木原さんの事務所には「教育勅語」全文を記した額が掲げられていた〉と書いてある(2016年7月28日付)。
言論・教育弾圧を平気でおこなう人物が首相補佐官だとは……。しかも、木原議員を今回、安倍首相が右腕として補佐官に起用したのは、憲法改正をごり押しするための布石であることは間違いない。
実際、木原議員にはこんな話がある。それは、2018年1月に櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が開催した月例研究会でのこと。「憲法改正を阻むものは何か」をテーマに、櫻井氏のほか安倍応援団の長谷川三千子氏、産経新聞の田北真樹子氏、日本会議政策委員で憲法学者の百地章氏、杉田水脈参院議員、そして当時財務副大臣だった木原議員が登場した。
この安倍シンパ・極右勢揃いの会のなかで、木原議員は “私の理想は2012年の自民党改憲草案、二項を削除する改憲案”だと述べた上で、安倍首相が現在進めようとしている「9条加憲案」について、こんな話をはじめるのである。
「安倍総理が、二項を残すという決断をされました。それは、いろいろなことを慮ってのことです。選挙は勝たなければいけません。国民投票も勝たないと意味がない。改正もされない。
もし、憲法改正は一回しかできないという法律なら、二項削除で戦うしかないと思っています。しかし、憲法改正は何回でもできる。一度、改正に成功したら、国民のハードルはグッと下がると思います。そして、一回目の改正を成功させたあとに、二回目の改正、三回目の改正と、積み重ねていけばいいと思っています。最終的には前文も当然、改正しなければいけない。そこで、一回目の改正を、しかも今年に成功させるためにはどうすればいいか。私も政治家ですから、安倍総理と同じ考えです。政治家は結果を出さなければいけません。評論家でもなく、宗教家でもないし、学者でもありません。結果を出すにはどうすればいいかということを最善の判断基準にしたいと思っています」
ようするに、“「自衛隊明記」で改憲してしまって、その後は前文も含め、何回も改正していけばいい”“まずは改憲を成功させることが大事”だと安倍首相は考えている、と公の場で木原議員は認めたのである。
安倍自民党は先の参院選でも「自衛隊明記」の改憲について「これまでの9条の解釈は変えない」と主張していた。だが、木原議員の発言をみれば、それが国民を騙すための大嘘だということがわかる。そして、この「ともかく一回、改憲する」という目標を達成するためのシフトとして、安倍首相は木原議員を補佐官に任命したのだ。しかも、木原議員がこれまで“弾圧”を繰り返してきたことを考えると、改憲議論でも同じようなことを起こす可能性は高いだろう。
安倍首相のためには何でもやる最強で最悪の秘書官兼補佐官を頂点に、“憲法改正”担当の極右補佐官が脇を固める──。安倍首相は嫌韓扇動によって内閣支持率がアップしたのをいいことに、いよいよ自分の周りをすべて側近で固めてしまう独裁体制の構築に入ったとみていいだろう。オーバーではなく、今回の新内閣によって、この国の「民主主義」は完全に終わらせられるかもしれない。
(編集部)
最終更新:2019.09.16 12:30