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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第39号

「家政婦」の名目で24時間労働の介護で日当1万円、残業代なし! 労基法の穴を利用したミタゾノもびっくりのブラック紹介所

 ここで、Oさんの賃金を計算してみよう(便宜上、週40時間超・休日労働の計算は省略する。)。

 基準となる賃金額が不明であるので、最低賃金で計算してみることにする。当時の東京都の最低賃金は766円だったのだが、労働時間が1日あたり24時間になるので、時間外労働が16時間、深夜労働が7時間となるため、1日で22,788円という計算になる。日当が11,700円であるから、毎日11,088円の未払いという計算になる。24時間勤務の対価が22,788円ということ自体が驚異的な低さではあるが、毎日1万円超の未払いということもまた驚異的である。

 そして、24時間勤務とすれば、毎月の残業時間は、500時間を超えることになる。実際のところ、夜間は被介護者の部屋で仮眠となるため不活動時間もそれなりに多いが、24時間対応を要請されていることには変わりが無い。

 実は、この裁判、先程登場した、Oさんの息子(元バンドマンで探偵)が自ら訴状を作成して訴えを提起していた。家政婦紹介所に代理人が就いたため依頼となった訳である。

 訴訟の途中から介入していくのはやりにくいが、①稼動の実態は、「家事」ではなく「介護」であり、労働者に該当すること、②家政婦紹介所の基本指示に従い、個別の指揮命令をするのが入居者であることから、実態は派遣であることという主張を中心に組み立て直し、未払残業代を計算し直して、改めて主張することにした。

 会社側の代理人は、就労時間が24時間であることについて、「24時間契約の家政婦だから当然である。」「何の問題も無い。」と回答し、裁判期日の度に、「家政婦なのだから(訴訟を)取り下げたら如何か。」と言っていた。まさにブラック企業に寄り添うブラック士業というべきだろう。

 この裁判は東京地裁立川支部に係属していたが、裁判官も本件の働き方の酷さを見て、これは、救済しなければならないと考えたのだろう。毎回、原告の働き方の実態や、どのような指示が出されていたのかについて、資料提出を求める等、労働者であることを固めるような訴訟指揮をしていた。

 会社側は尋問においても、そのブラックぶりを遺憾なく発揮した。会社の代表者は、会社側の代理人からの質問には答えるが、こちら側からの質問には、「よく覚えていません。」「忘れました~」といって何も答えないという態度で、ブラック企業を絵に描いたような人物であった。

 試しに、会社の代理人が聞いたことと同じ質問をしたところ、「覚えていません。」と回答した。態度が徹底している。この態度には、さすがの裁判長もブチ切れて、「きちんと答えなさい。」と指示をだしていたが、それでも、「忘れました~」を連発した。

 結果、原告は労働者であると認定され、未払賃金・残業代の支払いを命ずる判決となり、会社は控訴したが、高裁で十分な水準での和解となった。

 あまりにも信用できない会社&代理人であったため、和解金は席上での交付となり、帰り道、大金を抱えて緊張したことを覚えている。

【関連条文】
家事使用人の労働基準法適用除外 労働基準法116条2項
労働時間の規制 労働基準法32条
残業代の計算 労働基準法37条
日本の最低賃金 最低賃金法

(弁護士 上田裕/つきのみや法律事務所 http://www.tsukinomiya-law.jp/)
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.09.13 11:49

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