日本記者クラブで会見する周庭さん(日本記者クラブHPより)
市民によるデモが政治を動かす──。容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐって100万人以上の市民が参加する大規模な抗議デモが起こっている香港だが、昨日、林鄭月娥行政長官が改正案の「延期」を発表した。
香港では「高度な自治」が保障されているが、「逃亡犯条例」が改正されればこれが崩れ、中国政府による介入を許すことにつながると危険視されている。また、ご存じの通り中国政府は民主化運動家や人権弁護士らといった政府に都合の悪い人物に対する恣意的かつ不当な逮捕や拘束、拷問を繰り返しているが、「逃亡犯条例」改正によって香港の民主派にもそうした弾圧が加えられることは目に見えている。実際、2015年には中国共産党を批判する本を販売していた香港の銅鑼湾書店の店長ら関係者が失踪する事件が起こったが、店長だった林栄基氏は中国当局の組織によって拉致 ・拘束されていたことを告白している。
このままでは、香港に約束された言論・表現の自由や法の支配が奪われてしまう──。2014年に民主的な選挙を求めて学生らが立ち上がった「雨傘運動」のメンバーで、日本に「逃亡犯条例」改正の問題を訴えるため来日した周庭さんも、日本記者クラブでの会見で「改正案が可決されたら、これから香港はデモができる場所ではなくなるかもしれないという気持ちを持っている香港人がたくさんいますと切迫した危機感を語った。
だが、香港の「自由」を守るために市民が参加した抗議運動デモでは、鎮圧に乗り出した機動隊がデモ参加者に向けて催涙弾やゴム弾を水平に打ち込んだり頭部を狙い撃ちにするなど、重傷者を出す事態に発展。たったひとりの市民を大勢の機動隊員が警棒でめった打ちにするなどの様子がSNSで拡散された。
さらに、このような衝撃的な映像が世界に発信される一方で、中国外務省や香港政府は「組織的な暴動」などと非難。この露骨な市民への弾圧とその正当化には国際的にも非難の声が集まり、そして、きょう16日のデモは9日を上回る市民が参加するとみられていた。
そうしたなかで、香港政府が発表した改正案の延期──。つまり、中国からの弾圧という危険に晒されることを承知しながらも、自分たちの「自由」のために権力と対峙した香港市民たちの勇気ある行動が、香港政府の譲歩を引き出したのだ。
もちろん、香港政府が今後、どのような手に出てくるかはまだまだ警戒が必要であり、改正案の撤回を求めて本日のデモも予定通り実施されるというが、デモによって政治を動かした香港市民には、心からの拍手を送りたい。
そして、いま一度考えたいのは、この「デモ」という意志表示、直接行動の意味についてだ。