「ブラ弁は見た!」の第2号でマタニティ・ハラスメントすれすれの解雇を行ったブラック企業を紹介したが、今回はまごうことなきマタニティ・ハラスメントを行ったブラック企業について紹介したい。
Xさんは10年以上にわたってその会社の経理部で正社員として勤務し、経理に精通したベテラン社員であった。上司からの信頼も厚く、重要な業務も任されていた。
ところが、第2子の妊娠を上司に報告したのをきっかけに、突然、上司から呼出しを受けるようになる。Xさんが第2子の妊娠を報告した数日後、上司である経理部長から呼び出された。呼出しの冒頭から、上司は、今すぐ正社員からパート社員になってほしい、難しいなら解雇もありうると説明してきた。あまりに突然のことであったためXさんが理由を教えてほしいと質問したところ、上司は、第2子を妊娠したことの心証が悪いと言ってのけたのである。
そして、そこから執拗な呼出しが続き、その回数はわずか2カ月という期間で合計10回近くにのぼった。
上司からの度重なる呼出しの中で、Xさんは「正社員のままでお願いします」「パートとして働くのは考えてないです」「とにかく今はパート社員にはなりたくないです」と今後も正社員として勤務していきたいと何度も何度も伝えた。
それにもかかわらず、上司は、保育園からの連絡で急に早退したり子どもの体調不良で欠勤したりするだろうから子育てをしていくには正社員からパート社員に変更したほうがXさんのため、このままパート社員への変更を拒否し続けて育休前に会社がXさんを解雇したら育児休業給付金(育休中に雇用保険から支給される給付金)が受けられなくなるから正社員からパート社員に変更したほうがXさんのため、とにかく上司は「Xさんのためだから」を強調しながら1時間から長いときは2時間近くXさんを説得し続けた。
あまりに執拗な呼出しによって精神的に追いつめられたXさんは、最後のほうの呼出しの中で「私は正社員でいたいんです。お願いします」と泣きながら訴えたが、それでも上司は壊れたロボットのように「Xさんのためだから」を繰り返した。
結果として、上司からまた呼び出されるのではないかと考えるだけでXさんは動悸や息切れを感じるようになり、さらに、当時妊娠中であったがストレスからおなかが頻繁に張るようになってしまい、これ以上この会社で働き続けることはできないと自ら退職願を提出するまで追い込まれてしまったのである。
マタニティ・ハラスメントとは、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児等を理由とした解雇や雇止め、自主退職の強要、非正規社員への契約変更、減給などの不利益を被ったりするといった不当な取扱いを意味する。
このようなマタニティ・ハラスメントを防止するため、男女雇用機会均等法9条3項は、女性労働者の婚姻、妊娠、出産を理由としたり、産前産後休業等の権利を行使したこと等を理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止している。
そして、2017年1月1日より施行された男女雇用機会均等法11条の2は、妊娠・出産等に関する言動により、女性労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主は、雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めている。そして、事業主が防止措置を講じなければならないマタニティ・ハラスメントには、上司による解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動も含まれている。
つまり、正社員からパート社員に変更するよう強要したことやそれを拒否すれば解雇もありうると示唆したことは、明らかなマタニティ・ハラスメントにあたる。