いったい古市がどういう対応をするのかはよくわからないが、すでに反省の姿勢を示した落合も含め、ぜひふたりに言っておきたいことがある。それは、謝罪と撤回に加えて、この“終末期医療カット論”を財務省からどのようにレクチャーされたのか、ということを詳しく説明してほしい、ということだ。
前回の記事でも指摘したが、「終末期治療のムダ」「高齢者の最後の1ヶ月に金がかかる」という嘘は財務省がしきりに振りまいてきたものだ。
財務省は2007年、実際に古市説のもとになったような「一年間にかかる終末期医療費=約9000億円」なる資料を公表。調査実態が不詳で金額だけを出したことから、高齢者医療費カットのためのミスリードだと批判を浴びている。また、2013年には麻生太郎財務相が政府の社会保障制度改革国民会議で、余命わずかな高齢者の終末期の医療費について「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」などと発言、批判を浴びて撤回した。
前述の二木氏の論文は麻生発言の際に書かれたものだが、その二木氏は研究上は〈終末期医療費をめぐる論争には決着がついた〉にもかかわらず、〈政治的には同じ誤りが何度も蒸し返されると、麻生発言を通じて、改めて感じました〉と感想を述べている。古市と落合の今回のいきさつをみていると、財務省はあいかわらずこのペテンに満ちたデータを「政治的に蒸し返し」続けているということだろう。
しかも、財務省が悪質なのは、データの歪曲だけではなく、財政危機への対処について、あらかじめ社会保障のカットしか選択肢はない、というミスリードをしていることだ(これは消費増税でも同じロジックが使われている)。
しかし、社会保障のカットは経済を冷え込ませ、逆に財政悪化をもたらす危険性は多くの経済学者が指摘している。そして、累進課税や相続税の強化、法人税の増税、富裕税の新設など、格差の是正が財政危機解決と経済活性化につながるというのは、トマ・ピケティやジョセフ・E・スティグリッツ、ポール・クルーグマンなど、世界的な権威の経済学者も主張していることだ(古市・落合の信者たちが今回の批判に対して、『だったら対案を出せ』と叫んでいるが、いくらでも対案はある。彼らは、あらかじめ自民党政権の支持層に都合の悪い選択肢を省かれてアジェンダセッティングされていることに気づかない、自分たちの愚かさを自覚するべきだろう)。
そういう意味では、今回の古市憲寿、落合陽一による対談問題の本質は、ふたりが間違ったことだけにあるわけではない。財務省がいまなお、こうしたインチキな世論誘導をおこなっているということにある。
だから古市には、その「友だち」との「検証作業」を、落合には「議員さんや官僚の方々とよく話している」その中身を明らかにしてほしい。それが、言論人としての責任というものだろう。それこそが、〈多様な人にとって暮らしやすい社会を実現したい〉(落合)という望みを叶えることにつながるはずだ。
(編集部)
最終更新:2019.01.06 12:49