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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第26号 

2000万円支払い命令を受けたパワハラ上司の恐怖の実態! 執拗ないじめ、パワハラ裁判中にも手紙で人格攻撃

① Aさんの記憶の復元

 1点目は、Aさん自身の記憶の復元である。Aさんは、地道に、自分が仕事中に受けた被害の詳細を1つ1つ思い出していった。その際に役立ったのが、業務日報、妻とのメール、デザインのためにスマホで撮った写真など、一見パワハラとは関係のない資料。業務日報は、労災申請をすると、労基署が会社から取り寄せてAさんに提示してくれた。その他は、Aさんのスマホに残っていた。Aさんは、そうした客観的な資料を1つ1つ眺めることで、当時あった出来事を具体的に思い出し、時系列に並べることができた。辛い作業だったと思うが、Aさんは、パワハラ裁判を提訴する頃には、79項目ものパワハラに関する出来事を、非常に詳しい状況とともに、書面にまとめあげていた。

② 元同僚Bさんの協力

 2点目は、元同僚Bさんの協力である。Aさんの職場には、上司S、Aさん、派遣社員Bさんがいた。Bさんも上司Sからパワハラを受け、Aさんよりも先に退職していた。AさんがBさんに協力を求めたところ、Bさんは快く応じてくれた。Bさんは、労基署の事情聴取に応じ、裁判でも証人として出廷し、Aさんがどのようなパワハラを受けていたのか、自分が目撃したことを話してくれた。これは在職中、AさんがBさんに、人間的な対応をしていたからこそ。日ごろの生き方は、大切である。

③ 上司Sも認める

 3点目は、上司S自身、事実関係をあまり否定しなかったことである。裁判で上司Sは、「そのような発言はあったが、それは、自分の後継者として期待していたAさんへの愛情を込めての厳しい指導だった」と、「パワハラではなく指導だった」という評価の問題として争ってきた。

④ 何が最も大切だったか

 では、裁判で最も重要なのはどれだったのか。私は、①のAさんの記憶の復元だったと考えている。上司Sが事実関係を概ね認めたのは、Aさんが詳細な事実を積み上げた結果でもある。非常に詳しい事実を提示したことで、それを全部「Aさんの妄想」と切って捨てることはできなくなったのだろう、と私は思っている。

 当然、パワハラ裁判では、上司が事実関係を否定してくる場合もある。協力してくれる同僚がいない場合もある。そんな場合でも、被害を受けた労働者本人のしっかりとした記憶によって、「確かにそのような事実があった」と裁判官に印象付けられるか否かが、非常に重要となるのである。

 しかし、人間の記憶はすぐに薄れる。私も、たとえば今年風邪をひいたのが何月だったか、すぐには思い出せない。記憶力に自身のない方は、簡単で良いので、その都度、手帳に書き込む、LINEに書く(LINEは自分だけのグループも作れて、それは日付入りの自分専用メモになる)、といった癖をつけてもらいたい。これだけでも随分違うものである。

 どんなに絶望的な状況になっても、自分は仕事をしたんだという誇り、労働者としての誇りを失わずに、しっかりと生き残って、過去を冷静に見つめ直すこと。そうすれば必ず、正義はあなたに味方するはずだ。

【関連条文】
パワハラの違法性 民法709条
パワハラについての会社の責任 民法715条、労働契約法5条
パワハラが原因で休職した場合に給料を満額受け取る権利 民法536条2項

(中川拓/諫早総合法律事務所http://isahayasogo.web.fc2.com/index.html

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.12.25 12:39

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