しかし、安倍政権と皇室の対立が深くなるにつれ、官邸の“天皇封じ込め”は一層露骨になっていく。たとえば、2016年に天皇がビデオで直接国民に語りかけた「生前退位」をめぐる軋轢だ。
そもそも、天皇側はこれ以前から、女性宮家の創設や「生前退位」について政府に検討を要請していた。にもかかわらず、官邸が無視をし続けた。そうした背景があって、天皇側から「生前退位の意向」をNHKにリーク、そして、明仁天皇自らの「おことば」公開という流れになったわけだが、これに対し、官邸は激怒。天皇の「おことば」表明後、風岡典之・宮内庁長官(当時)を事実上、更迭し、次長に子飼いの警察官僚・西村泰彦氏をあてて牽制するという報復人事に出たのである。
しかも安倍政権は、国民世論におされてしぶしぶ「生前退位」だけは認める方向に転換したものの、その政府有識者会議やヒアリング対象者には、安倍首相直々の指名で“生前退位反対派”の日本会議系メンバーを複数送り込み、制度化を望む天皇の希望を無視して「一代限り」とした。さらに、この有識者会議のヒアリングでは、安倍首相が人選した平川祐弘・東京大学名誉教授が「ご自分で定義された天皇の役割、拡大された役割を絶対的条件にして、それを果たせないから退位したいというのは、ちょっとおかしいのではないか」と天皇を批判する始末だった。
こうした安倍政権の“報復”に、天皇はショックを受けたとも報じられているが、いずれにしても、官邸は皇室と宮内庁への圧力を強化し、天皇の発言を封じ込めようとしたのだ。事実、2016年と2017年の誕生日会見では、2013年のように憲法に関する踏み込んだ発言は完全に封印され、一年の動静を端的に振り返るかたちとなっていた。
そうしたことから、明日発表される誕生日会見も“官邸に睨まれる発言”は出てこないだろうとの見通しが、この間、大勢を占めてきた。永田町では、「自らの天皇としての歩みを振り返りながら、国民に感謝の気持ちを述べるという内容に落ち着くのでは」との観測が主流だ。
しかし、今回は、天皇として“最後の誕生日会見”だ。安倍官邸のプレッシャーをはねのけて、自分の本当の思い、危機感をはっきりと語るということも、十分に考えられるだろう。
たとえば、安倍首相の改憲に向けた動きが本格化していることに危機感を覚え、戦争と平和憲法への思いを改めて強調するかもしれない。あるいは、前述したように、明仁天皇は沖縄に対して強い思いを抱いている。政府による“沖縄いじめ”が苛烈を極めるなか、沖縄について踏み込んだ発言をする可能性もある。
いずれにせよ、明日にはすべての内容が公になる。慎重な言葉遣いのなかに、天皇がどんなメッセージと思いを込めたのか。結果を見届けたい。
(編集部)
最終更新:2018.12.22 10:03