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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第25号 

とりあえず土下座、朝礼で吊るし上げ、社長基準でクビ…ワンマン社長の“俺”理論が支配する中小企業の恐怖!  

また、社長は、そもそも反省とは何かという基準が自分の中にあり、前任者から言われた通りやったというのは、たとえそれが事実であったとしても反省ではないから、私の基準では懲戒解雇の理由になると説明した。

 要は自分に落ち度がなくてもとにかく謝れということである。

 我々は、事前にAさんからK社の食堂にある掲示板の写真を見せられていた。そこには、不満そうな表情で両手を膝の前で組んでいる従業員の写真とともに手書きの反省文が張り出されていた。反省文には「懲罰として10万円の給与減額を申請します。」「責任をとって退職します。」などと記載されていた。K社の異様な雰囲気を感じる写真であった。

社長は、これらの反省文について、「従業員が反省の意を表すために自主的に掲示したものだ。こういうことはとても良いことで、人事評価の対象になる。」と証言した。

 なお、K社では職能給制度が採用されていたが、Aさんの職能給は理由も告げられず減額されていた。Aさんには「A-20-1」などの等級がつけられていたが、就業規則にある職能給一覧表にはそのような等級は見当たらなかった。

このことについて、裁判官から、Aさんの職能給は就業規則のどこにあるのか尋ねられると、社長は「ありません。私が考えて付けました。」と証言した。

 K社では、法律のみならず就業規則すら無視され、従業員の賃金も社長の独断で決定されていたのである。

 裁判官は判決で、Aさんに対する懲戒解雇が無効であるとしたうえ、杜撰な解雇が民法上の不法行為に該当するとして、K社に対して、Aさんが働けなくなったことによる逸失利益(賃金6か月分)及び慰謝料を支払うよう命じた。また、社長のパワハラ(「寄生虫」発言及び後頭部を叩いたこと)に対する慰謝料、並びに減額された賃金差額分の支払いも命じた。

 中小企業という閉ざされた社会の中で、K社では今まで誰も社長の“俺”理論に対して声を上げることができなかったのだろう。

 労働者が一人で会社や社長に対して声を上げることは難しく、そのために法律は労働組合に強い権限を与えている。

残念ながら、K社をはじめ、日本には労働組合がない、あるいは機能していない中小企業が多く存在しているが、職場における労働者の権利を守るため、あらゆる企業に労働組合が浸透し、対等な労使関係が育まれることを願うばかりである。

【関連条文】
不法行為=民法709条

(鈴木悠太/旬報法律事務所http://junpo.org

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.11.05 12:29

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