いや、これは言い訳というより、明らかな責任転嫁といったほうがいいだろう。報道、情報番組の司会者やレギュラーコメンテーターというのは、番組全体を背負って社会的な発言をする存在であり、ミスがあったときは、当然、その責任をとる立場でもある。その情報をとってきたのが自分かどうかというのは関係がない。スタッフが取材したものだろうが、ADが作ったフリップだろうが、それを事実として語ったら、誤報が明らかになったときは番組を代表して謝罪する必要があるのだ。
それが、「事前にフリップを見たわけでもない」などと平気で部外者のようにふるまい、「次にこういうことがあったら降りる」「それぐらい失敗のないように緊張感をもって。ニュースを扱うということはそういうこと」「僕はそれぐらいでみんなの緊張感が高まればいいかなーと」とか、まるでスタッフへの訓示のようなコメントを口にするのだから、いくらなんでも他人事感がひどすぎる。
しかも、唖然としたのが、「東野も俺も何時間も前にスタジオに入って、ニュースを全部決めて、文言も全部確認して、裏取りもしてってやらないといけない」「そんなことできるわけない」などと堂々と言ってのけたことだ。あのね、大概のニュース番組のキャスターは毎日、そういう準備、検証作業をやっているんだよ。2、3時間前にスタジオ入りして、その日のテーマを事前勉強して、直接、裏取りはできなくても、どういう取材過程で入ってきた情報なのか、確認が取れている情報なのかをスタッフにしつこく聞いて、そうやってぎりぎりのところで、情報を取捨選択し、表現を調整しているのだ。
これは、ワイドショーの司会者だって同じだ。政治問題や社会問題などヘビーなテーマのときはほぼ必ず同様の作業をやっているし、コメンテーターも事前にその日扱うテーマのラインナップを聞いて、事前取材や調査をしている。
おまけに『ワイドナショー』は生ではなく収録番組である。事後にいくらでもチェックが可能ではないか。
ようは、松本は「オレはトークの天才やから事前準備なんて必要ない」という、お笑いバラエティの司会やフリートークみたいな感覚で『ワイドナショー』に出演しているということなんだろう。なんとなくそんな気はしていたが、こんな安易な姿勢で安保法制や共謀罪の擁護コメントを口にし、それがまるで「大人の正論」のように扱われているのかと思うと、本当にぞっとする。
とまあ、情報やニュースを扱っている自覚がまったくない松本だが、もっとタチが悪いのは、たんに情報番組のレギュラーコメンテーター、番組の顔としての責任を放棄しているだけでなく、この期に及んで自分をまるで被害者のようにとらえていることだ。
マスコミにほめそやされている「次こういうことがあったら降りる」宣言もその典型だが、松本はもうひとつ、この謝罪コーナーの最後に、自己弁護のためにびっくりするようなデタラメを口にしていた。
「ただね、これだけは僕、本当にひとつ言いたいんです。1個だけすごく嫌な記事を見たんです。それはもうなんか、宮崎さんが言ってもないような文言を取り上げてみんなでスタジオでまあなんか、バカに、小バカにして笑ってたみたいなふうに書かれてたんですけど、それはないよね!?」
で、東野が「そうです、そうです」「だから毎回毎回死ぬ気で作品を作って引退宣言をしたと受け取って、あ、引退するんだ。また作るんだ。ほんなら死ぬ気やからまた引退するっていうなかの……」と同調すると、松本はさらにこんな弁明を重ねたのだった。
「あの、オンエア見ていただいた方にはわかると思いますけど」
「すげえなーってみんなで盛り上がってただけなんですよ」
「だから、そこにバカにしてる空気は一切なかったんですが、そういうふうに書かれてるニュースをもし監督の耳に入ったら、もう嫌じゃないですか」
「1個だけすごく嫌な記事」が、引退宣言集に乗っかった松本らのコメントを批判したリテラの記事のことを指しているのか、あるいはリテラは「バカにしてた」とは書いていないので別のニュースなのか、よくわからないが、とにかく、悪意あるニュース記事のせいで、自分たちの愛情あるコメントが歪められて伝わったというのである。
でも、これ、まったくの大嘘である。松本たちに自分たちがどういう態度だったかを思い出してもらうために、該当する会話をそのまま引用してみよう。