筆者は、Aさんの代理人弁護士に就任し、X社を被告として、未払残業代等請求訴訟を東京地方裁判所に提起し、同日、提訴報告の記者会見を行った。
記者会見には、事前に「プレスリリース」を作成し、記者に配布して、説明を行った。「プレスリリース」には、ここまで述べてきたような本件事案の概要を記載し、「「ブラック企業」の被害事案」であるので提訴し、あわせて記者会見をする、旨を書いていた。
本件は数社のマスコミによって報道がされ、それなりに世論の反響を呼んだ。なお、記者会見後、筆者は、自己の個人ブログに、上記記者会見のプレスリリースと同内容の記事を掲載していた。
すると、X社は、筆者に対し、当該ブログ記事の削除を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立ててきたのである。マスコミの記事が既に大々的に広まっているのに、さして閲覧数もない筆者の個人ブログの記事を削除してもあまり意味はないと思われるが、とにかく、X社はそのような手段に出てきたのである。
ただちにブラック企業被害対策弁護団で協議をし、弁護団所属の弁護士を中心とする74名の弁護士が筆者の代理人に就任し(自分も弁護士だが、「弁護士って頼りになるな!」と感じた瞬間である。)、本件記事に何ら違法性はないため削除は断固拒否する態度を貫いたところ、数回の裁判期日を経て、X社は仮処分の申立てを取下げた。
未払残業代及び慰謝料請求事件についても、ほぼ同時期にAさんの言い分をほぼ認める内容での和解により終結した。
X社がこのような仮処分を起こしてきた真の狙いは、代理人の弁護士を攻撃することによって、Aさんの未払残業代等請求事件を事実上早期に幕引きすることにあったと考えざるを得ない。これはブラック企業被害撲滅のための活動に取り組む弁護士及び各種団体にとって、看過できない問題である。
このような攻撃に対しても、いわば「返り討ち」ができた事案であるので、ここに報告する。
なおAさんは、すぐに優良な職場環境の別業種に転職することができ、やりがいをもって働かれているようである。
(田村優介/城北法律事務所 http://www.jyohoku-law.com)
【関連条文】
労働契約の内容の説明→労働契約法4条
残業代→労働基準法37条
過労死ライン→平成13年12月12日付基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp
長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.08.07 09:44